研究課題/領域番号 |
21K11617
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
新谷 隆史 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 特任准教授 (10312208)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | チロシンリン酸 / 脱リン酸化 / 遺伝子欠損マウス / 食欲 / 脂質 |
研究実績の概要 |
本研究においては、嗜好性の高い食餌に対する食欲制御機構について解析する。応募者は、受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)のR3サブファミリーに属するPTPRJとPTPROが摂食制御やエネルギー代謝調節において重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。 RPTPは細胞内のタンパク質のチロシンリン酸化の制御に重要な役割を果たしており、PTPRJ並びにPTPROの遺伝子欠損マウスにおいては、特定のタンパク質のチロシンリン酸の制御に変化が生じることによって、摂食の制御に異常が生じていると考えられる。 本研究においては、両RPTPと複合体を形成する膜タンパク質であるLRRsに着目して研究を進めている。これらの分子ははヒトの高度肥満に関連する遺伝子として知られている。これらLRRsについて遺伝子欠損マウスを作製し解析を行ったところ、これらのマウスでは嗜好性の高い高脂肪高ショ糖食に対して過食を示し、高度な肥満状態になることを見出した。さらに、高度肥満状態になった遺伝子欠損マウスについて詳細な解析を行ったところ、肥満状態の野生型マウスに比べて、グルコース耐性テストやインスリン抵抗性テストで顕著な悪化が観察されるとともに、血中の脂質量の増加などの異常が観察された。 また、これらの遺伝子の発現分布について解析したところ、主に中枢神経系で高発現することが明らかになった。さらに、脳内においては、大脳皮質や視床下部、扁桃体などにおいて高発現することが明らかになった。従って、LRRsはPTPROやPTPRJとともに、脳内の特定の領域で機能することによって嗜好性の高い食餌に対する食欲の制御に働いていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り順調に解析が進んでいるため。
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今後の研究の推進方策 |
LRRを強制発現させるアデノ随伴ウイルスを用いて、LRR遺伝子欠損マウスの様々な脳部位で回復実験を行う。ウイルスを食欲形成に関わる脳部位である、腹側被蓋野、側坐核、扁桃体や視床下部の弓状核、室傍核等に感染させた場合に、高脂肪高ショ糖食の摂食量が正常に回復するかを調べることによって、摂食制御に重要な脳部位を特定する。 また、LRRが複合体を形成する分子を同定するために、共免疫沈降実験と質量分析を組み合わせた解析を行う。そのために、使用するウイルスベクターのLRRにHAタグを付加し、抗HA抗体を用いることで精度の高い共免疫沈降実験を行う。先の実験でLRRの重要性が明らかになった脳部位について、LRRと複合体を形成する分子を生化学的に明らかにする。 さらに、遺伝子欠損マウスにおいて異常が生じている情報伝達系を生化学的に明らかにするために、BDNF受容体等のRPTKsが制御する情報伝達系や、PTPRJやPTPROが制御するインスリンやレプチンによる情報伝達系、そして生化学的実験で相互作用が明らかになった分子が関与する情報伝達系について特異的な抗体を用いた生化学的解析を行う。これらの結果を総合することによって、LRRが制御している情報伝達系を明らかにする。
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