本研究においては、嗜好性の高い食餌に対する食欲制御機構について解析する。応募者は、受容体型プロテインチロシンホスファターゼ(RPTP)のR3サブファミリーに属するPTPRJとPTPROが摂食制御やエネルギー代謝調節において重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。RPTPは細胞内のタンパク質のチロシンリン酸化の制御に重要な役割を果たしており、PTPRJ並びにPTPROの遺伝子欠損マウスにおいては、特定のタンパク質のチロシンリン酸の制御に変化が生じることによって、摂食の制御に異常が生じていると考えられる。本研究においては、両RPTPと複合体を形成する膜タンパク質であるLRRsに着目して研究を進めている。これらの分子はヒトの高度肥満に関連する遺伝子として知られている。これらLRRsについて遺伝子欠損マウスを作製し解析を行ったところ、これらのマウスでは嗜好性の高い高脂肪高ショ糖食に対して過食を示し、高度な肥満状態になることを見出した。さらに、高度肥満状態になった遺伝子欠損マウスについて詳細な解析を行ったところ、肥満状態の野生型マウスに比べて、グルコース耐性テストやインスリン抵抗性テストで顕著な悪化が観察されるとともに、血中の脂質量の増加などの異常が観察された。また、これらの遺伝子の発現分布について解析したところ、大脳皮質や視床下部、扁桃体などにおいて高発現することが明らかになった。さらに、肥満状態におけるLRRsの発現について解析したところ、肥満の進行に伴って、LRRsの発現量が劇的に変化することが明らかになった。また、培養細胞を用いた解析から、LRRsは食欲の制御に関与するTrkBと複合体を形成することが明らかになった。従って、LRRsはPTPROやPTPRJとともに、脳内の特定の領域で機能することによって嗜好性の高い食餌に対する食欲の制御に働いていると考えられる。
|