研究課題
脳に特徴的にみられる脂質スルファチドは、正常な神経活動に必須であり、アルツハイマー病の超早期に減少することが知られている。本研究では、老化促進モデルマウスを用いて、①脳内スルファチドの減少は脳の老化に関連するか、②スルファチド産生を促す食事由来成分は脳の老化を予防できるか、について検証する。本研究では、これらの実験を行うことにより、脳の老化に関する新しいメカニズムを明らかにし、早期に実行可能な認知症の予防法の開発に繋げることを目指している。本年度は上記②の実験のための実験条件の検討として、細胞実験においてスルファチド産生を促すことが見いだされた有効成分・低分子栄養成分をC57BL/6Jマウスに投与する実験を行った。化合物の投与経路・投与量・投与期間、またマウスの性別・齢、および解析する臓器などを複数検討し、in vivo でスルファチド産生を強く促す実験条件を現在検討している。また、細胞実験で見いだされた、上記の化合物によるスルファチド増加作用のメカニズムに関する調査を行った。スルファチド合成酵素の発現誘導に関連するいくつかの候補分子を特定し、これらの分子に対するshRNA発現ベクターを準備している。また、細胞実験からスルファチド産生を促す新たな化合物分子を見いだし、その作用機序を示唆する実験結果を得られつつある。また、研究分担者の協力のもと、老化促進マウスの長期飼育を行い、新たな生体サンプルを回収すると共に、昨年度回収したサンプルの解析を進めている。
3: やや遅れている
昨年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症や配置換に伴う研究環境の変化などの事情により、当初計画したようには進んでいない。また、スルファチド分析に使用している本学共用施設のMALDI-TOFMS装置にトラブルが生じ、装置の様子をみながらの運用となっている。本装置に関しては新しい装置の購入は目途がたっておらず、これまでのスルファチド分析の代替法の検討も進めている。また、マウスへの化合物投与実験に時間が費やしているが、本計画で行う実験の基盤となるデータを得るために必要である。これらの影響から、実験計画は当初予定したよりもやや遅れていると考えている。
R5年度は、これまでに回収した老化促進マウスと同系統コントロールマウスの脳サンプルを用いた解析を行い、加齢に伴い脳内のスルファチド含量は減少するのか、それは脳内のどの領域でみられるのか、また、スルファチドの分子種組成に変化はあるか、などについて検討する。また、現在行っている健常マウスへの低分子栄養成分・化合物投与実験を終了して、これらの化合物を老化促進マウスへ投与する実験を行い、脳内スルファチド量は増加するか、老化抑制作用はみられるか、加齢病変の出現は抑えられるか、認知機能の低下は抑えられるか、などについて調査を行う。加えて、老化個体の血清サンプルを用いてスルファチド分析を行い、脳の老化を反映しうる血清スルファチド分子種を探索する。これらの実験と並行して、低分子栄養成分・化合物によるスルファチド増加作用のメカニズムに関する実験を行う。
上述した理由により実験計画に遅れが生じ、予定していたマウス等の消耗品の購入を延期したため、次年度使用額が生じた。次年度使用額はR5年度請求額とあわせて消耗品費として使用する予定である。
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Biomedicines
巻: 10 ページ: 1667~1667
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Front. Nutr.
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