研究課題
造血器悪性腫瘍とサルコペニアの関連に関して、2021年度は骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome: MDS)における治療前のサルコペニアの状態が予後に相関するか検討した。53例のMDS患者に関して、azacytidine投与前に筋肉量を測定した。具体的には治療前のCT画像を用いて、 第3腰椎(L3)レベルでの筋面積(腹筋、大腰筋、傍脊柱筋)を身長で2回割った骨格筋指数(L3 Skeletal muscle index:L3SMI)を用いて筋肉量を評価する。男性で42 cm2/m2、女性で38 cm2/m2未満をサルコペニアと定義した。男性41例、女性12例、年齢中央値69歳(17-82歳)で検討した結果、SMIの中央値(範囲)は男性で42.1 cm2/m2 (29.7-59.7)、女性で37.4 cm2/m2 (27.0-43.6)であった。27例がサルコペニアを有していた。Azacytidine治療後の生存期間中央値、奏功率、さらに非血液学的有害事象に関しては、サルコペニアの有無で差を認めなかった。しかし、貧血や血小板減少といった血液学的な有害事象に関してはサルコペニア合併例で有意に増加していた。MDS患者におけるazacytidine治療において、サルコペニア合併例では血液学的毒性への注意が必要と考えられた。また19例と少数ではあるが、MDS患者血清中のトリプトファン、キヌレイン、kynurenic acid等を測定した。他の造血器腫瘍と比較して、MDSでは血清キヌレインが増加しており、特にキヌレイン/トリプトファン比は有意に増加していることを示した(Yamaguchi et al. Hemato 2020)。このことはMDSにおいてIDO活性が上昇していることを示しており、IDO阻害剤がMDS治療の選択肢となりえることを示唆している。
3: やや遅れている
当初計画していたアミノ酸欠乏培地を用いた骨格筋芽細胞(C2C12 myoblast cell)細胞増殖実験をXTTアッセイを用いて行った。また、分化培地を用いてC2C12細胞の筋管形成実験を行い、筋細胞への分化、増殖にあたえる影響を検討し、その結果を報告した(Ninomiya et al. Nutrients 2020)。マウス実験でも、トリプトファン欠乏食は有意に筋細胞の萎縮をきたし、通常食で萎縮した筋細胞の回復が得られることを確認した。今後は、担癌マウスでのアミノ酸とサルコペニアについて検討する予定であるが、まだ予定通りに進んでいない。実験内容は、SCIDマウスにRaji細胞(バーキ ッドリンパ腫)を投与し悪性リンパ腫モデルを作製する。このモデルを使い、餌中のアミノ酸を増加させることで、骨格筋の低下の予防や回復ができるかどうかを調べる。さらに、その変化が生存率に影響を与えるかどうか検討する。
第1に、計画していた担癌マウスでのアミノ酸とサルコペニアの関連について検討を進める。他方、MDSに対するAzacytidineの治療反応性に関して、サルコペニアの有無での検討をさらに症例数を増やして継続する。また、治療に伴いサルコペニアの改善ならびに悪化が原疾患の治療効果と相関するのか時系列データを用いて比較検討する。さらにMDS以外の造血器疾患(悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など)でもサルコペニアの予後への影響を検討する。栄養状態の一つの指標であるCONUTスコアが固形がんなどの予後予測因子になり得ることが提唱されているが、我々はperipheral T-cell lymphoma (PTCL)においてもCONUTスコアが予後予測因子となることを報告した(Nakamura et al. Leukemia & Lymphoma 2021)。今後はCONUTスコアなどの栄養指標とサルコペニアを組み合わせて、造血器悪性腫瘍の新たな予後予測因子の開発に取り組む。特に高齢化が進む中、フレイルな患者割合がさらに増加することが予想され、frailtyの評価指標としてサルコペニアやCONUTをうまく組み込んで評価する方法の開発が必要と考える。
今年度は実験の準備段階であり、来年度より本格稼働するため、実験器具・試薬の購入費増加が予想される。従って翌年度への繰り越しが生じた。また成果発表の為、国際学会ならびに国内学会での発表旅費が考えられる。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
LEUKEMIA & LYMPHOMA
巻: - ページ: -
10.1080/10428194.2021.2020777