トリプトファン代謝産物キヌレン酸が脳内で増加すると,神経伝達物質の放出抑制を介して高次脳機能を低下させる.本研究では,キヌレン酸産生機構がアミノ酸代謝と関連することに着目し,末梢のアミノ酸代謝変動が脳内キヌレン酸産生を介して高次脳機能におよぼす影響を明らかにすることを目的としている.令和5年度には,令和4年度に引き続き,末梢組織のアミノ酸代謝変動が脳内キヌレン酸産生におよぼす影響を明らかにするため,エネルギー産生栄養素代謝に影響をおよぼす断続的断食について検討した. 20時間の断続的断食を行ったラットにおいて,アミノ酸異化代謝が抑制された.断続的断食を行ったラットの脳キヌレン酸濃度は自由摂取したラットよりも低値を示した.断続的断食により,血清トリプトファン濃度は低値を示し,肝臓,肺,腎臓,骨格筋などさまざまな末梢組織においてトリプトファンの異化代謝が抑制された.さらにトリプトファン添加食を与えても,断続的断食を行ったラットでは脳キヌレン酸濃度の上昇はまったく認められず,末梢組織におけるトリプトファン異化代謝にも影響は認められなかった.以上の結果は,断続的断食によって絶食の状態が続くために血清トリプトファン濃度が低下し,そのために末梢のトリプトファン代謝が抑制され,キヌレン酸前駆体キヌレニン産生が抑制されるために脳におけるキヌレン酸産生も抑制されるという機構を示唆している.本研究成果は,食事方法が末梢組織のトリプトファン代謝を変動させることにより,脳キヌレン酸濃度にも影響をおよぼすことを示しており,脳キヌレン酸産生上昇に伴う高次脳機能低下を食事方法によって予防できる可能性を示している.
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