本研究課題では、まずアレルギー症状を緩和するコメ品種「ゆきひかり」と、緩和効果のない「きらら397」の炊飯米の成分を比較した。その結果、「ゆきひかり」にはグルタチオン関連物質の含量が「きらら397」より少ないことがわかった。グルタチオンは酸化還元状態の調節に関与するため、両品種間にはレドックス状態の違いがあり、これがタンパク質のジスルフィド結合を通じてアレルギー症状の緩和に影響を及ぼしている可能性がある。 「ゆきひかり」と「きらら397」の米粒タンパク質をNative PAGEで比較すると、約350kDaの位置に「ゆきひかり」特有のバンドが観察された。さらに、Native PAGEとSDS-PAGEの二次元電気泳動では、この350kDaのバンド位置から複数のスポットが現れた。また、タンパク質抽出時に還元型グルタチオンを添加すると、この350kDaのバンドが薄くなることが確認された。これらの結果から、「ゆきひかり」ではグルタチオン含量が低いため、ジスルフィド結合が保持されて巨大なタンパク質複合体を形成していることが示唆された。 令和5年度の研究では、nanoLC-MS/MSを用いてこの複合体中のペプチドを解析し、複数のアレルゲンタンパク質を同定した。その中で、α-アミラーゼ/トリプシンインヒビターとグリオキシラーゼIの合成ペプチドに対する抗体を作成し、Native PAGEからウエスタン解析を行った。その結果、両抗体とも350kDaのタンパク質複合体に結合することが確認された。これらの結果から、「ゆきひかり」ではグルタチオン含量が少ないために、α-アミラーゼ/トリプシンインヒビターやグリオキシラーゼIなどのアレルゲンタンパク質同士がジスルフィド結合を介して巨大な複合体を形成し、このことによりアレルゲン性が低減されることでアレルギー症状の緩和につながる可能性が考えられた。
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