研究課題
本研究課題においては、脂質摂取による膵島の増殖を食塩過剰摂取が抑制する機序を明らかにすることを目的に検討を進めている。C57BL6雄マウスに高脂肪食または高脂肪+高塩分食を負荷した結果、高脂肪+高塩分食群では、高脂肪食群と比較して膵島の数・面積が低下し、インスリン分泌不全を呈した。その結果を基に脂質の摂取による膵β細胞の増殖促進と、食塩過剰摂取によるその阻害機序を解明することを目指している。膵β細胞の増殖を示唆するKi67陽性細胞の増加は高脂肪食摂取後数日の段階で生じる。候補となる機序として自律神経系の関与を検討した。高塩分食によってマウスの尿中カテコラミン排泄が増加することを確認し、食塩摂取過剰によって交感神経系が活性化することが示唆された。膵β細胞にはα2受容体が発現するとされており、α2遮断薬を膵β細胞におけるKi67陽性細胞率を比較した。現時点では薬剤によるKi67陽性細胞の増加は見いだせていない。今後薬剤の種類、投与量の変更も検討して病態解明を進める方針である。高脂肪+高塩分食を摂餌するマウスモデルは肥満が軽度でインスリン分泌不全を呈する糖尿病モデルと考えられ、有用な糖尿病薬を探索し、その病態形成機序解明と治療法の確立を目指している。
3: やや遅れている
これまでの研究によって脂質摂取による膵β細胞増殖促進は摂取数日という早い段階で生じることを見出した。その候補となる機序として自律神経系の関与を検討した。C57BL6/J雄マウスに通常食または高塩分食を摂餌させ、尿中カテコラミンを測定した結果、高塩分食で尿中カテコラミン排泄量が有意に増加することを確認した。食塩過剰摂取が交感神経系の活性化を介して膵β細胞の増殖を抑制している可能性を想定して高脂肪食または高脂肪+高塩分食を給餌したマウスに対して、交感神経遮断薬を投与して耐糖能の変化を検討した。交感神経遮断薬としてはβ遮断薬であるpropranolol、α2遮断薬であるyohimbinを用いた。1週間の投薬の後、ブドウ糖負荷試験を行った結果、両薬剤ともにマウスの耐糖能に変化を生じなかった。膵β細胞に発現しているカテコラミン受容体はα2受容体であると報告されているため、yohimbinの膵β細胞増殖に対する影響を検討した。高脂肪食または高脂肪+高塩分食を摂餌させ、yohimbinを腹腔内投与したマウス膵組織を用いて膵β細胞のKi67陽性率を解析した。摂餌後3日の検討において高脂肪食群に比較して、高脂肪+高塩分食群では膵β細胞のKi67陽性細胞率は低下したものの、yohimbin投与群においてKi67陽性細胞率の上昇は認められなかった。薬剤を全身に作用させていることから膵局所におけるα2遮断の影響を見出せなかった可能性もあると考えられた。高脂肪+高塩分食を摂餌するマウスモデルは肥満が軽度でインスリン分泌不全を呈する糖尿病モデルと考えられる。このような病態に有用な糖尿病薬を検討する目的で、SGLT-2阻害薬を投与してその効果を解析し、ブドウ糖負荷試験で耐糖能の改善を確認した。今後、インスリン分泌能の変化についても解析する予定である。
脂質摂取による膵島の増殖を食塩過剰摂取が抑制する機序を解明するために、C57BL6/J雄マウスに、高脂肪食あるいは高脂肪+高塩分食を負荷するモデルを用いて、マウスの耐糖能・インスリン分泌能の変化、膵の形態や遺伝子・タンパク発現の差異を解析し病態形成機序や治療法につなげることを目指している。今後、病態形成機序をより詳細に解析するために、マウスに高脂肪食または高脂肪+高塩分食を給餌した後に膵島を単離して、単離膵島における遺伝子発現を解析し、食塩過剰摂取によって膵島で特異的に発現が変化する遺伝子群を同定することを検討している。また、単離膵島を用いて、各群のグルコース応答性インスリン分泌、増殖能の比較も検討する。神経系以外の機序として免疫応答の変化についても検討する予定である。食塩過剰摂取によって免疫細胞の応答が変化することが報告されている。膵島における炎症性サイトカイン発現やマクロファージの極性の変化などの解析を検討している。高脂肪+高塩分食群において、体重増加後に餌を高脂肪食のみに変更してその後の体重推移、体組成や耐糖能の変化を検討し、減塩による治療効果を検証する。現行の糖尿病薬の中で他に有効な薬物療法として、GLP-1作動薬は膵β細胞保護に加えてナトリウム利尿作用も報告されているため、GLP-1作動薬が食塩過剰摂取によるインスリン分泌不全を抑制できるかについて検討を予定している。
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PLOS One
巻: 16 ページ: -
10.1371/journal.pone.0248065