研究課題/領域番号 |
21K11652
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研究機関 | 北翔大学 |
研究代表者 |
沖田 孝一 北翔大学, 生涯スポーツ学部, 教授 (80382539)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 肥満パラドクス / 体格指数 / 身体組成 / 身体機能 / 健康寿命 / 生活習慣病 / サルコペニア / フレイル |
研究実績の概要 |
1)筋、骨、脂肪量と体格指数の関連性の検討:「肥満パラドクス」の検証のため、65才以上の高齢女性68名において体重の主構成要素である筋、骨、脂肪量の測定(生体インピーダンス法)を行い、各々の相関と体格指数への関連性を検討した。単相関では、筋、骨、脂肪量はいずれも体格指数と相関を示しており、また相互に相関関係がみられた。重回帰分析では、脂肪量が最も強く体格指数に関連していたが、骨量の有意な関連性は消失し、体格指数の主要構成要素は脂肪量と筋量であることを明らかにできた。 2)筋、骨、脂肪量と各組成由来生理活性物質(サイトカイン)の関連性:各身体組成量のみならず、生理機能的要素を調べるため、筋由来マイオカイン(脳由来神経栄養因子)、骨由来オステオカイン(オステオカルシン)、脂肪由来アディポカイン(アディポネクチン)を測定し、関連性を調べたが、筋、骨量と各サイトカイン血中濃度の有意な相関はみられず、脂肪量のみがアディポネクチン濃度と有意な負の相関を示していた。各組成由来とされるサイトカイン濃度は、筋と骨に関しては、量とは別の要因で制御されている可能性が示された(2021年9月11日、学会発表)。 3)各種身体的・精神的健康指標との関連(重回帰分析):筋量が握力と骨量がFunctional Reach Testと関連していたのみであった。 4)心血管疾患危険因子との関連(重回帰分析):体格指数と脂肪量はインスリンと有意な相関を示していたが、筋、骨量は心血管疾患危険因子との関係性を示さず、各体組成量は相互に相関を示しながらも、心血管疾患危険因子との関連において異なる方向性を示すことを明らかにできた。これらの結果は、研究仮説の通り、健康への寄与において、肥満指標として体格指数を用いるには、その構成要素も個別に検討する必要性と重要性を示唆するものである(2021年11月6日、学会発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究を継続し、肥満指標としての体格指数に着目し、肥満が各種疾患の危険因子であるにもかかわらず、肥満者の生存率が高い「肥満パラドクス」(肥満の矛盾)の検証のための研究を進めている。長引くコロナ禍のために、しばしば研究関連施設が閉鎖されるなど、ヒト集団を対象とした研究を実地しづらい状況ではあるが、予備的に取得していたデータも用いて、研究の意義と方向性を確認し、問題点を明らかにしていくことができている。これまで200名以上の研究協力希望者があったが、男性は極めて少ないため、対象を女性に限定し、骨粗鬆症治療薬や女性ホルモン剤の服用者を除く68名を解析対象として、調査研究を進め、体重の主構成要素である筋、骨、脂肪量の測定を行い、それぞれの相関性と体格指数への寄与・関連性を検討することができた。また、生理機能的指標として筋由来マイオカイン、骨由来オステオカイン、脂肪由来アディポカインを外部委託および関連施設にて測定し、各体組成量との関連を検討することもできた。これらの結果を2021年9月11日、日本臨床運動療法学会にて発表している。 計画通り、筋、骨、脂肪量および体格指数と各種身体的・精神的健康指標さらに心血管疾患危険因子との関連を検討することができている。身体的指標として、握力や10m歩行速度など7項目の測定に加え、機能的自立度評価法など6項目の調査、精神的健康指標として、SF-36健康関連QOL尺度の調査を実地し、心血管疾患危険因子は早朝空腹時採血による血液生化学指標にて評価した。これらの関連性を多変量解析により検討し、その結果の一部を2021年11月6日、日本心臓リハビリテーション学会北海道地方会にて発表している。 コロナ禍で一度に大人数の測定は展開しにくい状況ではあるが、着実にデータを蓄積し、新しい知見を公表できているため、当該研究は順調に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
1)データ取得方法の工夫:本研究はヒトを対象としているため、今後も続くと思われるコロナ禍において、データを確実に取得していくため、関連施設において定期健康診断を受ける高齢者に研究の主旨を説明し、同意が得られた場合、測定項目の追加を行い、適宜解析対象に加えていく。また、体力および体組成の測定のみが可能な場合は、同意の上に健康診断のデータを提供していただき、適宜解析対象に加える。 2)測定項目の見直し:①脂肪組織由来のアディポネクチンを除くサイトカインの有用性が示されなかったため、今後は測定を限定していく予定である。②骨量については、明確に意味のある結果が得られておらず、生体インピーダンス法の限界である可能性も考え、量ではなく強度指標(超音波法)の測定も追加していく。 3)解析内容と方法の見直し:本研究は規模と期間から生命予後を調べる主旨ではないため、断面的調査により研究仮説はある程度明らかにできているが、さらに詳細な検討のために以下の内容を調べる。①量的指標と質的指標の有用性と優位性(筋量と筋力、骨量と骨強度など、どちらが重要か、両方が必要なのか)。②持久系体力と瞬発系体力の有用性・優位性および相互関係(同様にどちらが重要か、両方が必要なのか)。③下肢機能と上肢機能の有用性・優位性および相互関係(握力と大腿・足趾筋力など)。④栄養学的調査項目の追加(フレイルやサルコペニアに関係すると考えられているEnergy availability:利用可能エネルギーおよび分子鎖アミノ酸、ビタミンD摂取量を含めた調査)。⑤生活習慣の影響についての検討(喫煙やアルコール多飲は、運動機能などに影響するため、解析対象から除外されることが多いが、これらの影響も調べる)。 4)研究成果の公表に向けて:国際学会における発表については未だ見通しが立たないので、積極的に国際学術雑誌への掲載を目指していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
長引くコロナ禍のため、参加予定であった旅費を伴う学会が度々中止あるいはweb開催となり、年度末(3月末)にも同様な事例が起こったため、残額執行の猶予がなかった。また、コロナ禍における被験者数の減少の影響もあった。 本報告の時点において、すでに差額は執行したが、次年度は執行が遅れることがないように、計画的に被験者の追加と新規測定を積み重ね、積極的に学会および学術雑誌における研究成果の公表を行っていく予定である。 具体的には、次年度の計画に加えて、より積極的な成果公表と被験者数と新規測定の増加を考えている。
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