研究課題/領域番号 |
21K11652
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研究機関 | 北翔大学 |
研究代表者 |
沖田 孝一 北翔大学, 生涯スポーツ学部, 教授 (80382539)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 肥満パラドクス / 体格指数 / 身体組成 / 身体機能 / 健康寿命 / 生活習慣病 / サルコペニア / フレイル |
研究実績の概要 |
個人情報とプライバシーに十分な配慮をしつつ研究は順調に進んでおり、主要4テーマの実績は以下の通りである。 1)筋、骨、脂肪量と体格指数の関連性の検討:「肥満パラドクス」検証のため、前年度は、高齢女性において体重の主構成要素である筋、骨、脂肪量の測定を行い、各々の相関と体格指数および身体機能への関連性を明らかにした。2022年度はその関連性における栄養摂取状況(乳製品・カルシウム摂取量)の影響を検討し、習慣的な乳製品摂取は、体格指数、脂肪量および筋量には関連せず、骨強度に寄与する一方、心血管疾患危険因子には悪影響を及ばさないことを明らかにした(日本心臓リハビリテーション学会学術集会, 2022年6月11-12日)。 2)筋、骨、脂肪量と各組成由来生理活性物質(サイトカイン)の関連性:各身体組成量と生理・機能的要素を調べるため、筋由来の脳由来神経栄養因子、骨由来のオステオカルシン、脂肪由来のアディポネクチンを測定し、関連性を解析したが、筋・骨量と各サイトカイン血中濃度の有意な相関はみられず、脂肪量のみがアディポネクチン濃度と有意な負の相関を示していた。筋および骨由来とされるサイトカイン濃度は、量とは別の要因で制御されている可能性が示され、臨床応用は難しいと思われた(第41回日本臨床運動療法学会学術集会, 2022年9月3-4日)。 3)筋、骨、脂肪量および体格指数と各種身体的・精神的健康指標の関連:筋・骨に関しては有益な情報が得られなかったため、脂肪に焦点を絞って研究を進めている。 4)心血管疾患危険因子との関連:前年度に体格指数と脂肪量以外は心血管疾患危険因子との関係性を示さないことを明らかにしたが、2022年度はこの関係における栄養摂取状況の影響も検討した。その結果、乳製品・カルシウム摂取量は体格指数や脂肪量への関与を示さず、心血管疾患危険因子にも悪影響を及ぼさないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
先行研究を継続し、肥満指標としての体格指数に着目し、肥満が各種疾患の危険因子であるにもかかわらず、肥満者の生存率が高い「肥満パラドクス」検証のための研究を進めているが、個人情報とプライバシーに十分な配慮をしつつ研究は順調に進んでいる。 昨年度においても長引くコロナ禍のために、研究関連施設の利用者が減少し、集団を対象とした研究を実地しづらい状況は続いているが、予備的に取得していたデータと新規データを合わせて、研究の意義と方向性を確認し、問題点を明らかにしていくことができている。さらに栄養摂取状況調査を含めた検討も進め、特に筋・骨の健康に寄与すると思われる乳製品・カルシウム摂取量は意外に影響が小さく、骨強度のみに関連することを明らかにした。同時に脂質を豊富に含む乳製品の習慣的摂取が肥満や心血管疾患危険因子に悪影響を及ぼしていないことも示すことができ、2023 Medicine & Science in Sports & Exercise Annual Meeting(2023年5-6月)に採択され発表予定である。 当初の計画通り、筋、骨、脂肪量および体格指数と各種身体的(体力9項目と機能的自立度評価6項目)・精神的健康指標(健康関連QOL尺度)さらに心血管疾患危険因子(血液生化学指標)との関連を検討し、公表することができた(2022年日本臨床運動療法学会、日本心臓リハビリテーション学会)。昨年の課題である①量的指標と質的指標の有用性と優位性、②持久系体力と瞬発系体力の有用性・優位性および相互関係、③下肢機能と上肢機能の有用性・優位性および相互関係、④栄養学的調査項目も検討することができており、今年度の国際学会にて発表予定となっている。 長引くコロナ禍であるが、着実にデータを蓄積し、新しい知見を全国規模の学会にて公表できているため、当該研究は順調に進展し発展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
1)データ取得方法の工夫:本研究はヒトを対象としているため、今後も続くと思われるコロナ禍において、データを確実に取得していくため、個人情報とプライバシーに十分に配慮し、引き続き関連施設において健康診断を受ける高齢者に研究の主旨を説明し、研究参加への同意が得られた対象者を適宜解析に加えていく。 2)測定項目の見直し:脂肪組織由来のアディポネクチンを除くサイトカインの有用性が示されなかったため、今後は測定を限定していく。骨量については、生体インピーダンス法の限界も考え、量ではなく強度指標(超音波法)の測定を適宜追加する。 3)解析内容と方向性の見直し:本研究を進めていくにあたり、筋・骨の量と質ではなく、肥満と脂肪量が身体機能指標と心血管疾患危険因子に大きな影響を及ぼすことが明らかになった。当初は、筋・骨量の測定に比較し肥満評価が精度に優れるためかと推測していたが、実はそうではなく、脂肪組織の蓄積が筋と骨の健康(musculoskeletal health)に悪影響を及ぼすためではないかという研究的疑問が生じてきた。すなわち、肥満・脂肪蓄積では肥満関連運動器障害(obesity-related musculoskeletal disorder)が起こりやすく、その有無が身体機能に悪影響を及ぼし、自立性や生存率を低下させる主要因になっているのではないかと推論するに至った。実際に本研究のデータの一部では、下肢筋力、片足立ち時間、全身反応時間および柔軟性は筋量ではなく肥満指標により統計学的に独立した負の影響を受けていた。今後は、「肥満パラドクス」という大きな枠ではなく、肥満関連運動器障害の有無にも着目して研究を展開する。 4)研究成果の公表に向けて:国内学会の発表はできており、今年度は国際学会における発表の見通しが立っている。並行して、国際学術雑誌への掲載の準備を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
長引くコロナ禍のため、国際学会はweb参加となり、国際学会旅費が発生しなかった。通常の健康診断受診者からの研究参加者リクルートが多く、謝金が発生しなかった。測定項目を限定したことによる外注費の減少もあった。 本報告の時点において、調査研究予定は立っており、順当に経費を執行できる見込みである。計画的に被験者の追加と新規測定を積み重ね、積極的に学会および学術雑誌における研究成果の公表を行っていく予定である。 具体的には、当該年度の計画に加えて、①長引くコロナ禍のために繰越しなっていた大規模調査測定にかかる費用、②積極的な国内外学会における成果公表、③国内外学術雑誌への論文掲載にかかる費用などが予定されている。
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