肥満は心房細動の発症率を上昇させるリスク因子である.しかしながら,肥満が心房細動の発症に対してどのように関係しているかは十分に明らかにされておらず,肥満における心房細動に対する有効な治療薬もない状況である.複数の臨床試験においてナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬が心房細動発症リスクを軽減することが報告された.現在もSGLT2阻害薬が心房細動発症を抑制する詳細な機序については不明なままである.これらのことから,本研究では,申請者らは肥満における心房細動リスク亢進に対するSGLT2阻害薬の抑制効果を有するのか,さらに心房細動発症機序に対してどのような影響を与えるのかについて検討した. 我々は短期間の高脂肪食摂取による肥満マウスモデルを作製し,検討を行った.肥満マウスを用いて,経食道心房ペーシングによる心房細動誘発試験を行い,心房細動の誘発性が亢進することを確かめた.SGLT2阻害薬投与は肥満マウスにおける心房細動誘発性の亢進を抑制した.SGLT2阻害薬の投与によって,高脂肪食摂取による肥満マウスの体重増加はわずかに抑制された.また,高脂肪食摂取は血清中パルミチン酸やステアリン酸などの飽和脂肪酸や総コレステロールを上昇させたが,SGLT2阻害薬の投与は影響を与えなかった.さらに,心房組織を用いたバルクRNAシークエンシングの結果,SGLT2阻害薬の投与によってイオンチャネルやカルシウム制御分子などの有意な遺伝子発現の変化はほぼ認められなかったことから,これら分子のタンパク質の翻訳後修飾へ影響を与えることで心房細動の誘発性を低下させている可能性があることが示された.肥満マウスモデルにおける心房細動誘発性の亢進に対するSGLT2阻害薬の抑制効果が心房に対する直接的なものであるか,他臓器を介した間接的な効果であるかを解明することが今後の課題である.
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