研究課題/領域番号 |
21K11678
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
八木 美佳子 九州大学, 医学研究院, 助教 (70536135)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / リソソーム / NAD+ / NMN / 老化 / HIF1α |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアタンパク質p32心臓特異的ノックアウトマウスを拡張型心筋症モデルマウスとして用い、疾病発症メカニズムの解析と予防治療の開発を目的として研究を行った。 このモデルマウスの発症メカニズムとしては、ミトコンドリア翻訳障害から転写因子HIF1αの発現が上昇しNAD+合成酵素の1つであるNmnat3 (Nicotinamide Nucleotide Adenylyltransferase 3)の発現を抑制し心臓組織内NAD+合成量を減少させた。その結果リソソーム機能低下を引き起こしオートファジーによる分解機能が低下したため寿命が短くなったと考えられる。特徴的なメカニズムとして、リソソーム機能維持に必須なATPが解糖系酵素であるGAPDHとPGKによってNAD+から産生される機構を発見した。実際にリソソーム膜近傍にGAPDHとPGKが局在しATPを産生できることも証明した。予定していたリソソーム機能解析は、リソソームマーカータンパク質の発現と免疫染色による局在変化、リポフスチンの同定、リソソーム活性測定、などであったが全て検証し、このモデルマウス心臓組織においてリソソーム機能低下を証明した。 我々の提唱するメカニズムは、NAD+の減少による様々な障害であったため、減少したNAD+を補うためにその前駆体NMNを投与し改善効果を検証した。生後2ヶ月齢マウスよりNMNの飲水投与を開始し9ヶ月齢で解剖して心臓機能の解析を行った。その結果、心筋症マーカーの遺伝子発現が改善した。心臓組織の線維化をMT染色により確認すると改善傾向がみられた。またリソソーム機能をリポフスチンの蓄積によって検証したところ改善効果があった。NMN投与マウスの寿命も確認し延長していることが分かった。以上の検証結果より拡張型心筋症の改善効果が確認できたため治療戦略としてNMN投与は有効である可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NAD+とリソソーム機能の関連性メカニズムの一部は解明できた。予定していたリソソーム機能解析もほぼ終了している。 予定通りNMNを2ヶ月齢より飲水投与し9ヶ月齢で解剖して心臓機能の解析を行った。その結果、心筋症マーカー、心臓組織の線維化、リソソーム機能、寿命、などにおいて改善効果がみられたため、更なる効果検証のためマウスを準備中である。 NMNによる改善効果を検証するには、マウスを使用するため準備に1年ほどかかる。現在NMNをマウスに飲水中であり1年以内に再度検証実験が行える環境にあるため概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
NMN投与によって寿命改善効果が確認できたため、予防治療としてNMNは有効であると考えられる。実際に、ミトコンドリア機能、リソソーム機能、オートファジー機能、のどこに最も効くのかを検証していく。さらにNMNの投与時期についても検証したい。実際にヒトへの応用を考えると、投与時期は生まれてすぐではなく老化の始まりの時期が最適であると考える。そのため、NMN投与開始時期を2ヶ月齢だけではなく、6ヶ月齢や9ヶ月齢へと変更しても改善効果が見られるのか検証していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍において実験を縮小せざるを得なかった。マウスの実験は1年近く飼育する必要があるため、昨年度は飼育に時間を費やした。現在多くのマウスを仕込んでいるため次年度は多くの実験を行う予定である。使用計画としては、マウスの解剖後に、リアルタイムPCR、Western blot、免疫染色、などの物品購入である。
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