研究課題
身体不活動や高脂肪食は骨格筋に対してメタボリックシンドロームや2型糖尿病の最も重要な病態であるインスリン抵抗性を惹起するだけでなく、骨格筋の量を減少させることが示唆されている。本研究は、高脂肪食、不活動により生じる相加的骨格筋インスリン抵抗性に重要な役割を果たすことが示唆されたフォスファチジン酸脱リン酸化酵素(Lipin1)の筋萎縮、筋力低下に関連する効果の有無とLipin1発現制御機構の分子メカニズムの全容を明らかにすることにより、包括的に骨格筋機能を改善する可能性とその応用法を提示することを目的として計画を立案された。本年度は、筋力が筋線維タイプの違いや骨格筋細胞内カルシウムイオン(Ca2+)動態によっても調節されることより、Lipin1とCa動態、筋線維タイプに着目し検討を行った。細胞内野生型Lipin1と酵素活性を持たない変異型Lipin1を過剰発現させたC2C12筋管細胞で薬剤刺激と電気刺激による細胞内Ca動態をリアルタイムイメージングによって評価を行った。また、TRPCチャンネルの動態についても評価し、Ca動態に関わる分子(Ryanodine receptor:RyR, 筋小胞体カルシウム ATPase:serca)について発現量、活性を評価した。さらに、Lipin1の発現量、活性が変化する高脂肪食不活動によってヒラメ筋特異的に細胞内脂質の著名な増加が起こることが確認され、それと共に筋線維内の細胞内Ca動態の変化が起こることを確認した。これらより、フォスファチジン酸脱リン酸化酵素であり、de novo lipogenesisにより細胞内のジアシルグリセオール生合成にかかわる骨格筋Lipin1が筋力にも関与している可能性があることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
申請書に従ってLipin1と筋力との関連を明らかにしてきている。
本年度の検討の結果、フォスファチジン酸脱リン酸化酵素であり、de novo lipogenesisにより細胞内のジアシルグリセオール生合成にかかわる骨格筋Lipin1が筋力にも関与している可能性があることが分かった。今後は、Lipin1が筋線維タイプに与える影響の有無についても検討を行う。具体的には、Lipin1ノックアウトマウスと薬剤誘導性骨格筋特異的Lipin1過剰発現マウスの骨格筋における筋線維タイプをそれぞれ、免疫染色とex vivoでの電気刺激による筋収縮力測定によって明らかにする。マウス下肢EDLとsoleusにおいてATPase染色を行うことによって筋線維タイプを同定する。さらに、単離したそれぞれの筋の発揮張力を測定する。また現在、高脂肪食、不活動によるLipin1の発現や活性の増加に対しての直接的な活性化因子の同定を目的として、トランスクリプトーム解析とリン酸化プロテオーム解析を行っている。具体的には、マウスをコントロール群、高脂肪食単独負荷群、不活動単独負荷群、高脂肪食、不活動負荷群に分け、負荷24時間後に各グループの骨格筋を用いて、トランスクリプトーム解析とリン酸化プロテオーム解析を行い、生体分子を網羅的に解析している。この解析で得られた結果を使用して、高脂肪食、不活動によるLipin1発現量・活性増加に関連する候補分子を10程度まで絞り込む予定である。また、単離骨格筋に、これらの候補因子を添加し、Lipin1発現量増加を引き起こす生理活性物質の同定をめざし、その化学的構造に基づいて、類推されるLipin1発現増加のメカニズムを検証する。
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