研究課題
超高齢社会を迎え、肥満、サルコペニアや両者を伴うサルコペニア肥満に伴う心血管病は健康寿命延伸のために予防治療法開発が喫緊の課題となっている。しかしながら、その対策はまだ不十分である。加齢に伴う疾患の発症には食生活や運動習慣など、どのような環境を経験してきたかが関わっている。エピゲノムはゲノムDNAやヒストンに化学修飾を付加する後天的な遺伝情報であり、外部環境を細胞に記憶させる遺伝子発現制御機構であると考えられる。我々はエピゲノム代謝研究を通して、ヒストン脱メチル化酵素活性を阻害したマウスが加齢に伴いサルコペニア肥満を呈することを見出した。このマウスでは脂肪-血管-骨格筋ネットワーク異常においてその機能が低下し、サルコペニア肥満を呈している可能性も示唆された。本研究では、ヒストン脱メチル化によるエピゲノム制御に着目し、脂肪-血管-骨格筋の組織間相互作用におけるエネルギー代謝とその破綻によるサルコペニア肥満発症機構の解明を目的とした。具体的には、(1) ヒストン脱メチル化酵素Jmjd1a全身性欠損マウスの運動機能解析、メタボローム解析、(2) 骨格筋もしくは脂肪特異的Jmjd1a欠損マウスの解析、(3) 全身性Jmjd1a欠損マウス、及びJmjd1a酵素活性欠失マウスの血管解析、及び血管特異的Jmjd1a欠損マウスの解析、(4) 脂肪、血管などの細胞種特異的なトランスクリプトーム・エピゲノム解析。以上の解析から、ヒストン脱メチル化酵素の抗サルコペニア肥満作用が生体内のどの組織で、どのような遺伝子の発現を調節することに起因しているのかを明らかにすることを目指した。
2: おおむね順調に進展している
概要で行うべき項目 (1)-(4)についての進捗は以下のとおりであり、概ね順調に遂行している。(1) Jmjd1a全身性欠損マウスを用いて走行距離試験を行い、野生型と比べて走行距離が減少することを見出した。また、メタボローム解析から、いくつかの骨格筋中の代謝物が減少していることを明らかにした。(2) 骨格筋特異的Jmjd1a欠損マウスの走行距離は野生型と変わらず、脂肪特異的Jmjd1a欠損マウスでは走行距離が減少するという端緒的な結果を得た。(3) Jmjd1a酵素活性欠損マウスでは脂肪組織中の血管数が減少する端緒的な結果を得た。また、フローサイトメーターを用いた解析からJmjd1a酵素活性欠損マウスでは脂肪組織中の血管内皮細胞数が減少することを明らかにした。さらに、血管内皮特異的Jmjd1a欠損マウスを作製した。(4) 脂肪組織から成熟脂肪細胞特異的にRNAを単離する方法を確立した。また、遺伝子発現活性化のエピゲノムマークであるヒストンH3K27アセチル化領域を特定するため、成熟脂肪細胞特異的に核を単離しクロマチン免疫沈降法によってH3K27アセチル化領域を濃縮する手法を導入した。
概要で行うべき項目 (1)-(4)について、以下の検証を進める。(1) メタボローム解析データの解析を進め、Jmjd1a欠損マウスの骨格筋でどのような経路の代謝物に変化が生じているのかを明らかにする。(2) 骨格筋特異的、脂肪特異的Jmjd1a欠損マウスの脂肪・骨格筋量の体組成解析、及び走行距離試験を続け、先述の結果を追証する。(3) 血管内皮特異的Jmjd1a欠損マウスの解析を進め、肥満、運動量低下がみられるか否か解析を行う。(4) 脂肪細胞から単離したRNA、及びクロマチンDNAを用いてRNA-seq解析、及びChIP-seq解析を試みる。また、血管内皮細胞からRNAの単離を行う。
理由:次年度の実験に使用するため①RNA-seq、及びChIP-seq解析に必要なライブラリー調製と次世代シーケンシング解析実施費用。②血管内皮細胞特異的Jmjd1a欠損マウスの解析
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
Nature Communications
巻: 12 ページ: -
10.1038/s41467-021-27321-5
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/12/press20211203-01-epigenome.html