タンパク質のリジン残基にピロール環を形成するタンパク質ピロール化は、不飽和脂肪酸(PUFA)の過酸化物に由来する非酵素的な翻訳後修飾として報告され、内因性のピロール化因子としてグリコールアルデヒドが同定された。また、グリコールアルデヒドの酸化体であるグリオキサールがピロール化を促進することが見出されたことから、酸化ストレスとの関連が示唆される。加えてピロール化タンパク質はDNA染色剤との結合能を有するなど、DNA様の性質を獲得することが報告されている。実際に自己免疫疾患モデルマウス血清に対して抗原性を示すことから自己免疫疾患との関連が示唆され、健康維持の視点からも重要な翻訳後修飾であることが予測される。 今回私は脂質過酸化反応を介さなくても、タンパク質の鉄・アスコルビン酸処理によってピロール化リジンが形成されることを見出した。この矛盾を解明するためにアスコルビン酸と鉄イオンをインキュベートしたところ、グリコールアルデヒドとその酸化体であるグリオキサールの形成を確認した。また、鉄キレート剤であるDTPAの添加によるグリオキサール形成の抑制と、グリコールアルデヒドの鉄処理によるグリオキサールの形成を確認した。これらの結果から、鉄触媒を介したアスコルビン酸の自己酸化に由来するグリコールアルデヒドの形成と、それに続くグリオキサールの形成によってピロール化が惹起されることが示された。 これらの結果から、リジンピロール化は脂質過酸化やアスコルビン酸などの還元糖の自己酸化など、グリコールアルデヒド形成に繋がる様々な経路が関与する可能性が示唆されることから、タンパク質ピロール化は生体内で普段から惹起される翻訳後修飾である可能性が示された。短鎖アルデヒド由来の付加体の報告は少なく、老化や疾患形成における短鎖特にC2、C3アルデヒド由来の付加体の生理学的役割の解明が今後重要になると考える。
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