2023年度は1型糖尿病が,Sestrin1とGATOR2複合体との結合,およびロイシン摂取後に起こるSestrin1のGATOR2からの解離(Sestrin1のロイシンセンサーとしての機能)に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし,下記の実験を行った. Wistar系雄性ラットをコントロール(C)群とストレプトゾトシン(S)群に分類し(各n=17),S群には75 mg/kgのストレプトゾトシンを,C群には溶媒として用いたクエン酸バッファーを腹腔内投与した.投与3日後に各群の半数(n=8)には生理食塩水を,残り半数(n=9)には1.5 mmol/kgのロイシンを経口投与した.その30分後に腓腹筋を採取し,分析に供した. リン酸化型S6K1の比(mTORC1活性化の指標)には,両群において,生理食塩水に比べてロイシンの摂取で有意な増加が認められたが,ロイシン摂取での比較ではC群に比べてS群が有意に低値であった.抗WDR24(GATOR2構成タンパク)抗体を用いた共免疫沈降では,Sestrin1とWDR24の結合には,C群に比べてS群で有意な増加がみられること,および両群において生理食塩水に比べてロイシンの摂取で有意な低下がみられることが観察された. 以上のように2023年度の研究では,1型糖尿病モデルラットにおいては,ロイシン摂取後に起こるmTORC1活性化が抑制されるが,この原因はSestrin1のロイシンセンサーとしての機能の変化にはないことを示唆する結果が得られた. 研究期間全体としては,1)速筋ではSestrin1が,遅筋ではSestrin1とSestrin2がロイシンセンサーとして機能すること,および2)ロイシンによる骨格筋mTORC1活性化の促進・抑制に,Sestrinのセンサー機能における変化は寄与しないことを示唆する結果が得られた.
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