研究課題/領域番号 |
21K11718
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
齋藤 誠 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (80535021)
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研究分担者 |
磯辺 智範 筑波大学, 医学医療系, 教授 (70383643)
呉 世昶 筑波大学, 医学医療系, 研究員 (10789639)
正田 純一 筑波大学, 医学医療系, 教授 (90241827)
柳川 徹 筑波大学, 医学医療系, 教授 (10312852)
佐藤 英介 順天堂大学, 保健医療学部, 准教授 (00439150)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 水素水 / 非アルコール性脂肪性肝疾患 / 非アルコール性脂肪性肝炎 / 肝脂肪量 / 高脂肪食 / 酸化ストレス / 脂質代謝 / ミトコンドリア代謝 |
研究実績の概要 |
我が国においては、過度の飲食や運動不足、喫煙等の不健康な生活習慣の積み重ねを原因とする非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)およびその進行型である非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)の急激な増加が社会問題となっている。 NAFLDは、飲酒歴がない、または飲酒量が少ないにも関わらずアルコール性肝障害に類似した脂肪性肝障害を呈する病態のことであり、肝細胞に脂肪沈着のみを認める単純性脂肪肝と、脂肪沈着に加えて肝細胞の壊死・炎症・線維化を伴うNASHに大別される。NASHは肝硬変や肝細胞癌に進展する可能性が高く、単純性脂肪肝の段階で適切に治療を施しておくことは重要である。 現在、NAFLD/NASHに対しては、運動療法、食事療法、投薬等の様々な治療法が取り入れられているが、患者側の理由も含め、治療の継続が困難となるケースが多い。水素は細胞の抗酸化能を向上させ、免疫機能の正常化を介して脂質代謝を亢進することが知られており、現在では,水素の医療利用に関する研究が飛躍的に進展している。 本研究は、水素の抗酸化作用、さらには水素が生体防御関連遺伝子群を活性化する作用機序に注目する。本研究の目的は、NAFLDからNASHへの進行における水素の防御的役割(病態予防や進展抑制)を明らかにすることである。 この研究結果から、NAFLD/NASHに対する治療継続や治療効果の改善への寄与が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、水素が非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)/非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に与える影響を明らかにすることを目的とした。先行研究において、水素水の投与は食餌誘発性肥満マウスの脂肪肝を改善することが報告されていることから(Kamimuraら, Obesity 2011)、我々は長期間の水素水投与が肥満の抑止に寄与するかを検証した。雄性8週齢のC57BL/6Jの野生型マウス20匹(水素投与群(10匹)と純水投与群(10匹))を対象に、高脂肪食(自由摂取)を与え、7.00 ppmの高濃度水素水または同量の純水を12週間,1日2回,経口投与し、比較解析した。体重、内臓脂肪、異所性脂肪(肝脂肪量)、身体組成(骨格筋量・体脂肪量)の変化において、両群の間、有意な変化は認められなかった。また、代謝装置を利用したエネルギー消費量の測定においても、両群間に有意差は認められなかった。これらの結果から、本研究では、長期の水素水投与による抗肥満効果は認められず、先行研究において示唆されていた水素水投与による抗肥満効果を支持する結果とはならなかった。その理由として、12週間に渡る長期間の高脂肪食投与では、誘導される肥満の程度が過度であり、水素水による抗肥満効果を打ち消してしまった可能性が考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
水素は活性酸素種の中でも、特に反応性の高いヒドロキシルラジカルと反応し、水に変換することで除去する抗酸化物質である。これより、継続的な水素水投与によって、酸化ストレスを軽減させ、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)から非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)への進行を抑止する可能性は非常に高い。 今後は8週齢の雄性C57BL/6Jの野生型マウスを対象として、高濃度水素水を自由飲水させる群(水素水群)と純水を自由飲水させる群(純水群)の2群に分け、1, 2, 4, 6週間飼育し、下記の項目について水素水飲水期間による変化を解析する。 (1)体組成の測定:体重測定および小動物用X線CT装置を用いてマウス全身画像を撮影し、得られた画像から皮下脂肪、内臓脂肪、筋肉量および体脂肪率の4項目を比較する。(2)ミトコントリア代謝系分子の発現レヘルの解析:両群の骨格筋・肝臓組織におけるAMPK、PGC1-alpha、SirT1の発現を測定し比較する。 (3)脂質代謝の解析:両群の骨格筋組織ではβ酸化を促進するCPT1b、肝臓組織では脂肪分解を促進するATGLの発現レベルを測定し比較する。 (4)Nrf2と酸化ストレス消去系分子の発現レベルの解析:体内の解毒代謝酵素や抗酸化酵素の司令塔因子である転写因子Nrf2とその標的遺伝子群の発現レベルを解析し、両群を比較する。 (5)自然免疫活性亢進の解析:両群の骨格筋・肝臓組織における急性期の炎症応答調節因子NF-kB p65の発現レベルを測定し比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験マウスの生化学検査(血液検査)を(株)オリエンタル酵母に外注する予定であったが、マウスのサンプリングが当該年度に間に合わず、次年度使用額が生じた。令和4年度にマウスのサンプリングが終わり次第、生化学検査の費用として使用する計画である。
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