研究課題/領域番号 |
21K11719
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
輿石 一郎 群馬大学, 大学院保健学研究科, 教授 (20170235)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フェロトーシス / サルフェン硫黄供与体 / 活性イオウ分子種 / トリスルフィド化合物 / 虚血再灌流障害 |
研究実績の概要 |
虚血再灌流障害により誘導される細胞死はフェロトーシスによると考えられる。多くの組織は、小規模な虚血再灌流を常に繰り返している。その結果、永年にわたる実質細胞・血管内皮細胞等の慢性的な障害が、結果的に生活の質を低下させ、健康寿命の短縮をもたらしている。フェロトーシスは、システインの枯渇により誘導される。その機序は、これまで、グルタチオン(G-SH)の枯渇によると説明されてきた。しかしながら、G-SHの枯渇によって細胞死が誘導されない例があり、第2の機序を考えなくてはならない。近年、硫化水素は抗酸化活性を有する等多様な生物活性が着目されている。硫化水素は細胞内でシステインを基質として酵素的に産生されるが、直接硫化水素としてではなくサルフェン硫黄としてスルフヒドリル基間を転移する。システイン枯渇によるフェロトーシス誘導の機序として、サルフェン硫黄の産生低下が考えられる。我々が、日常的に摂取している植物性食品の中に、“血液サラサラ食品”として知られるニンニク、ブロッコリー、キャベツ、ネギにはトリスルフィド化合物(R-SSS-R構造を有する)が含まれており、トリスルフィド化合物はサルフェン硫黄供与体として作用することが知られている。令和3年度は、ニンニクおよびキャベツに含まれるサルフェン硫黄供与体であるジアリルトリスルフィド及びジメチルトリスルフィドによるフェロトーシス細胞死への影響評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、シスチントランスポーターであるSystemXcの阻害剤であるエラスチンで処理したファイブロサルコーマ細胞株HT1080細胞を用い、ニンニクの抽出成分であるジアリルトリスルフィド(DATS)、キャベツ、ブロッコリーおよびネギの抽出成分であるジメチルトリスルフィド(DMTS)によるフェロトーシス細胞死への影響評価を行った。その結果、フェロトーシスを誘導したHT1080細胞の培養液にニンニク抽出液、キャベツ抽出液を添加したところ、フェロトーシス細胞死抑制作用が確認された。さらに、フェロトーシスを誘導したHT1080細胞の培養液にDATSおよびDMTSを添加したところ、いずれも細胞死を抑制し、これらサルフェン硫黄供与体がフェロトーシス細胞死を抑制することが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
フェロトーシス細胞死の誘導には、酸化的ストレスの過剰負荷が関与する。DATSおよびDMTSによるフェロトーシス細胞死抑制効果の作用機序を明らかにするには、これらトリスルフィド化合物の挙動解析が欠かせない。なかでも、タンパク成分であるエフェクター分子の活性スルフヒドリル基の化学的修飾を明らかにすることが重要である。令和4年度は、トリスルフィド化合物で処理した細胞内におけるサルフェン硫黄の動態解析、および細胞応答について分析化学的に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は、新型コロナ渦で大学側から研究の推進が制限されたこともあり、新たな研究を開始することができず、先行研究で準備した実験系を用いた確認実験のみを行い、論文作成に重点を絞った一年であった。論文も採択され、令和4年度には大学の実験研究に対する制限も緩和されることから、新たな研究を推進する。
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