研究課題/領域番号 |
21K11723
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研究機関 | 京都光華女子大学 |
研究代表者 |
森本 恵子 京都光華女子大学, 健康科学部, 教授 (30220081)
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研究分担者 |
鷹股 亮 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (00264755)
中木 直子 京都光華女子大学, 健康科学部, 講師 (40804183)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 脂肪摂食調節 / “舌―脳―腸軸” / 口腔内脂肪酸感受性 / 脂肪酸受容体 / 消化管ペプチド / 脂肪嗜好性 / 性差 / 性ホルモン |
研究実績の概要 |
近年の味蕾味細胞における脂肪酸受容体の発見は、舌における食事由来の脂肪酸感受性は脂質摂取量を調節する因子である可能性を示した。しかし、舌(口腔内)脂肪酸感受性が脂質摂取量にどのようなメカニズムで、どのような影響を与えるのかは未解明である。 (1)2021年度のヒトを対象とした研究では、食事中に脂肪酸感受性が変化する可能性、その変化が食事全体の脂質摂取量と関連がある可能性について検討を加えた。実験では、健康な若年男女大学生(11-13名)を対象とし、オリーブオイル、スクロースによる舌刺激を行い、その後のオレイン酸感受性の変化を測定した。その結果、男性では、コントロールと比較して、舌の脂肪・スクロース刺激後にオレイン酸閾値の有意な上昇が見られた。女性(月経期)においてもオレイン酸閾値は脂肪刺激後に上昇する傾向が観察された。なお、舌刺激前後のオレイン酸閾値に有意な性差は見られなかった。一方、男性では舌脂肪刺激後のオレイン酸閾値と自由選択摂食によるエネルギー摂取量との間には、正の相関関係が認められた。 (2)ウィスター系雌性ラットを使用した動物実験では、卵巣摘出後に高脂肪食(HFD)を与え、HFD誘発性肥満モデルを作成した。このモデルを用いて脂肪乳剤による口腔内・胃内刺激実験を実施し、口腔内、胃内への脂肪乳剤投与後のHFD摂食量の経時変化を測定するとともに、血漿消化管ペプチド濃度の変化を測定した。血漿グルカゴン様ペプチド-1、コレシストキニン濃度は脂肪乳剤の口腔内および胃内投与後に肥満モデルでははっきりした変化が見られなかったが、エストラジオール(E2)補充を行った群では、これら消化管ペプチドの血漿濃度が上昇した。以上より、卵巣摘出・HFD誘発性肥満モデルでは口腔・胃内の脂肪センシングから消化管ぺプチド分泌に至る経路の障害が存在する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)若年男女を対象とした研究では、食事由来の脂肪刺激による口腔内脂肪酸感受性の経時変化に着目し、実験的に舌脂肪刺激を行い、その後のオレイン酸感受性・脂肪嗜好性の変化について測定した。さらに、これら指標と自由選択摂食実験による全体の脂質摂取量との関連について検討を加えた。 これまでのところ、ヒトの舌への短期の脂肪刺激による脂肪酸感受性への影響については報告がなく、本実験にて初めて、脂肪摂取における短期調節機構を明らかにする基礎データの一部が得られたと考えている。しかし、2021年度においても新型コロナ感染症対策の一環として実施された諸制限のため、計画通りに被験者を確保することが難しく、十分な被験者数には届かなかった。 (2)雌性ラットを用いた研究では、計画通りに研究が進めることができた。実験では、卵巣摘出後に高脂肪食を与えることによって、高脂肪食誘発性肥満モデルを作成することができた。この肥満モデルラットを用い、長期の高脂肪食曝露によって脂肪センシング機構の障害、あるいは消化管ペプチド(グルカゴン様ペプチド-1およびコレシストキニン)における脂肪刺激時の分泌不全が生じる可能性を示唆するデータが得られた。 以上より、ヒトを対象とした研究ではコロナ禍の影響で当初の計画より被験者数が少なくなったものの、ラットを用いた研究では計画どおりに成果を得られたため「(2)おおむね順調に進展している。」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)2022度は、ヒトを対象とした研究において被験者数を増やし、詳細な解析を行う。実験においては、前年度に引き続き、若年男女大学生を対象に舌への脂肪刺激後のオレイン酸感受性の変化を測定し、脂質摂取量との関連について検討する。加えて、同様に若年男女大学生を対象として栄養補給飲料負荷実験を行い、空腹時と栄養補給飲料摂取後に摂食抑制作用を持つグルカゴン様ペプチド-1や摂食亢進作用をもつアシルグレリンなどの消化管ペプチドの血漿濃度を測定する。 これらのデータは前年度の結果と合わせ、食事中を想定した脂肪刺激による口腔内脂肪酸感受性・脂肪嗜好性の変化、口腔内脂肪酸感受性の脂質摂取調節における役割とそのメカニズムについて解明を進める予定である。加えて各指標の性差や月経周期依存性変化から性ホルモンの影響についても検討を加える。 (2)雌性ラットを用いた研究では、これまでの実験で得られた血漿サンプルを用いて、前年度に未測定となっている消化管ペプチドのグレリンやペプチド YYの血漿濃度、および摂食関連ホルモンであるインスリンやレプチン濃度を測定する予定である。また、舌・胃・小腸の粘膜組織サンプルを用いて、脂肪酸受容体・女性ホルモン受容体の測定を行う。これらの結果を得て、脂肪の口腔・消化管センシング機構、および口腔・胃への脂質刺激による消化管ペプチド分泌の変化と脂肪摂食調節における役割についてまとめる予定である。また、性ホルモン、特にエストロゲンの脂肪摂食における作用に関して、エストロゲンの作用部位(口腔あるいは消化管)、および脂肪酸受容体を介した消化管ペプチドの関与について明らかにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、新型コロナ感染症対策の一環として実施された諸制限のため、男女大学生の被験者を確保することが難しく、十分な被験者数には至らなかった。また、消化管ペプチドや性ホルモンの血漿濃度の測定等に使用したキットはすでに購入し保存していた残余分で測定できた。2022年は被験者数を増やすことを計画しており、謝金、各種消化管ペプチドや性ホルモン測定キット、脂肪酸受容体タンパク質・遺伝子発現の測定用消耗品などの費用に充てる予定である。これによって、脂肪摂取調節作用とそのメカニズムの解明を目指す本研究課題の効果的な推進を計画している。
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