研究課題/領域番号 |
21K11744
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中野 圭介 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (30505839)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 双方向変換 / 計算モデル / データベース |
研究実績の概要 |
双方向変換とは,異なる環境のデータ間における互いの整合性を保守するための両方向の変換のことで,データベースの同期やモデル駆動ソフトウェア開発などにおいて重要な役割を果たしている技術である. 本研究の目的は,この双方向変換を定義しやすくしたした言語(双方向変換言語)に関する二つの問題点を解決することである.初年度である令和三年度は,そのうちの一つである双方向変換言語の表現力に関して研究を進めた. 既存の双方向変換言語は,双方向変換が満たすべきラウンドトリップ性(二つの変換が互いに矛盾しないこと)を自動的に保証させるために,構文的な制約が設けられている.しかしながら,この制約のために任意の計算可能な双方向変換が記述できない可能性が指摘されている.本研究では,既存の双方向変換言語が過不足なく計算可能な双方向変換を定義できるかを確認することを目的としているため,研究期間の前半では双方向変換言語のための計算モデルを設計するという計画であった.初年度である令和三年度においては,双方向変換言語の二つの性質である対合性と冪等性についてそれぞれ計算モデルを作成した.以下では,この二つの計算モデルについて紹介する. まず,対合関数とは,逆関数が自分自身であるような関数のことで,定義域に含まれるどんな入力に対しても二度関数適用することで元に戻るような関数である.研究代表者は,時間対称チューリング機械という計算モデルを定義し,これが計算可能な対合関数を過不足なく表現できることを示すことに成功した.一方,冪等関数とは,定義域に含まれるどんな入力に対しても二度関数適用すると,一度だけの関数適用で得られる出力と同じ結果が得られるような関数である.研究代表者は,冪等チューリング機械という計算モデルを定義し,これが計算可能な冪等関数を過不足なく表現できることを示すことにも成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
双方向変換の満たすべき性質であるラウンドトリップ性が成り立つためには,両方向の変換を並列に組み合わせた関数が対合性を満たし,一方向の変換がある種の冪等性を満たす必要があることが知られている.そこで,双方向変換のための計算モデルを作る出発点として,対合関数のための計算モデルと冪等関数の計算モデルをそれぞれ定義することに成功したことは予定通りであり,研究は概ね順調に進んでいるといえる.
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに設計した対合関数のための計算モデルと冪等関数のための計算モデルを組み合わせることで,双方向変換言語の計算モデルが作成できるものと期待される. ただ,双方向変換の一方向が満たすべき冪等性は,複数の入力を伴う関数に対して定義されており,設計した冪等関数の計算モデルでは十分ではないことがわかっている.そこで,この計算モデルの拡張をまず試みるものとする.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた計画では,双方向変換言語の計算モデルを設計するにあたり,関連する国際会議への参加および発表や複数の専門家との議論を行う予定であったが,昨今の渡航制限により来年度に延期することもやむなしと判断した.次年度においては延期した議論の実現やそれに代わる書籍購入などの調査に利用する予定である.
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