研究課題/領域番号 |
21K11767
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山下 真 東京工業大学, 情報理工学院, 教授 (20386824)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 応用数学 / 数理最適化 / 半正定値計画問題 / 錐最適化 |
研究実績の概要 |
半正定値計画問題は、錐最適化問題の一つとして内点法など多くの研究がされている。本研究の研究対象である対数行列式半正定値計画問題は半正定値計画問題の拡張である。例えば、統計学のグラフィカルモデリングなどにおける直接的な相関と間接的な相関の差異の検出などにも利用可能な数理モデルである。一方で、大規模なデータにも適用可能にするには高速な計算手法の構築が重要である。研究代表者らは、これまでに対数行列式半正定値計画問題に対して、その双対問題の持つ数理的構造に着目をして双対射影勾配法を提案してきたが、最適解が疎行列となる場合やクラスタ分類情報などを付加した場合などに双対射影勾配法には改良の余地がある。 本年度は、クラスタ分類情報を付加した場合に対する双対射影勾配法の拡張の理論的解析を行った。双対射影勾配法は反復計算手法の一種であるが、各反復で勾配の実行可能集合への射影の計算が必要である。しかし、クラスタ分類情報の場合には双対問題に定式化すると変数の数が著しく増加するため、目的関数の勾配ベクトルに含まれる要素数も増えてしまう。このことから、既存の双対射影勾配法をそのままに適用すると勾配計算自体で長時間の計算時間が必要となり、適用可能範囲が小規模な問題に限定されてしまう。 本研究では、クラスタ分類情報に対応する部分に補助変数を導入することで、目的関数に直接含まれる変数を限定し勾配ベクトルの計算を簡略化する計算手法を開発した。このような簡略化を行っても射影部分を修正することで、生成される点列の目的関数値が元問題の最適値に収束することを理論的に示した。また、射影部分についても主要な計算ボトルネックとならないように計算量削減できるアプローチを採用した。この理論的解析の結果については、日本オペレーションズ・リサーチ学会2022年春季研究発表会で発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クラスタ分類情報が付加された対数行列式半正定値計画問題に対する双対射影勾配法について、最適値に収束するという理論的解析の主要な部分を達成できたことから「おおむね順調に進展している」と判断している。 理論的な解析に関しては、既存の双対射影勾配法の計算量の削減が重要な要素となっている。クラスタ分類情報については対数行列式半正定値計画問題の元問題の目的関数に行列要素の差分の絶対値として追加されており、これを双対問題に変形すると行列要素の差分への対応として O(n^4) の変数が必要となる。本研究では、行列要素の差分をコンパクトに表現するような補助行列を導入した。変数としては O(n^2) の要素数となり、これにより目的関数の勾配ベクトルの長さも O(n^4) から O(n^2) に削減することが可能となっている。また、既存の双対射影勾配法における最適性条件では O(n^4) の要素数が必要であるが、O(n^2) の要素数による最適性条件で同値な条件を導出した。この部分については、導入した補助行列に対する実行可能集合への射影の性質を利用するとともに、元問題の変数行列の差分の符号なども併用することで導出をしている。 一方で、目的関数が簡略化された影響が実行可能集合に蓄積されている点にも注意を要し、実行可能集合はO(n^4) の制約から構成されている。各制約に関して射影を直接計算することは、計算自体は容易な計算式であるもののO(n^4)の制約式に計算式を適用する必要がある。本研究では、射影計算を数理最適化問題とみなし、その双対問題に対して効率的な計算手法を利用した。射影計算と双対問題の最適解には密接な関係があり、双対問題を求解すれば射影計算は短時間で計算可能である。この計算手法に関しては一部を実装し、どのような計算量となるかを確認している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、理論的解析を優先して行ってきたが、今後は開発した計算手法について数値実験で性能評価を行う。理論的に解析したように既存の双対射影勾配法ではO(n^4) の計算量が射影に必要である一方で開発した計算手法では計算量が削減されており、数値実験を通して削減の効果を確認する。また、目的関数の勾配ベクトルの算出についても、新しく補助変数を導入したことにより一部の計算過程に同じ計算が複数回出現するため、その部分を効率化し、計算時間を短縮する。これらの数値実験結果は国際会議や国内学会などを通じて発表することを検討する。 また、理論的解析では新しい最適性条件を導出したが、既存の最適性条件と同様に実行可能集合を構成する制約の一部が直接的には最適性条件に関与しない。この数理的性質は半正定値行列に関する対数行列式が寄与しているが、クラスタ分類情報が付加されても計算量が著しく増加せずに双対射影勾配法を拡張可能な基礎をなしていると推察できる。このことは本研究の計算手法が他の数理最適化問題にも適用できる可能性を示しており、より深い解明の対象となると考えている。 本研究における双対射影勾配法の拡張に関するもう一つの方向性である最適解が疎構造を持つ場合についても、今後研究を発展させる。疎行列の場合には行列を複数の行列に分解する方法が計算時間短縮に効果的であると考えられるが、まずは行列を分解したときに元問題と同等の構造を維持できるか確認を行う。特に最適性条件については、分解した行列を元の行列に再構成可能なように追加の制約条件が必要であるために、これまでに導出した最適性条件を直接利用できない可能性もあり、分解に合わせて修正を行う。 また、対数行列式半正定値計画問題に対する計算手法の開発から得られた知見を、錐最適化問題などの研究にも活用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に参加を想定していた国際会議ISMP 2021 が COVID-19 の影響により2021年度に開催されなかったため、2022年度に繰り越しとした。 繰り越した金額については、数理最適化関連のソフトウェアや書籍の購入などに充当することを検討している。
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