研究課題/領域番号 |
21K11770
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
増山 博之 東京都立大学, 経営学研究科, 教授 (60378833)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ランダム・ウォーク型マルコフ連鎖 / 定常分布 / 安定性 / 上部ヘッセンベルグ型マルコフ連鎖 / GI/G/1型マルコフ連鎖 / M/G/1型マルコフ連鎖 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,ランダム・ウォーク(RW)型マルコフ連鎖における「安定性のトリニティ」,すなわち,安定性に関わる3つの量「増分平衡分布の裾減衰率」「エルゴード収束率」「定常分布裾減衰率」の関係性の解明とその応用を目的としている. この目的の達成に向けて, 代表的なRW型マルコフ連鎖であるM/G/1型,GI/G/1型,Upper Block-Hessenberg (UBH)型マルコフ連鎖などを対象に,エルゴード性に関するドリフト条件とポアソン方程式の解析を行うと共に,その解析結果を用いて, 定常分布に対する高精度な近似計算法や,準アルゴリズム的解構築法(有限手続きの反復により厳密解に収束する構築法)の確立などを目指す.2022年度の研究実績は以下の通りである. 小課題①: 漸近的なレベル独立性をもつUBH型マルコフ連鎖を対象とし, 定常分布の劣指数漸近公式を導出すると共に, システム参加の再試行(retrial)や断念(balking)があるマルコフ型待ち行列への応用を示した. また, 一般的なUBH型マルコフ連鎖における定常分布の準アルゴリズム的解構築は, 1反復ごとに1つの分数線形計画問題を解くことを要求するが, 本小課題で導いた劣指数漸近公式の成立条件下では, そうした分数線形計画問題の求解を回避できることを示した. 小課題②: 可算状態マルコフ連鎖に関するポアソン方程式について解析を行い, ブロック分解に適した解を「基礎偏差行列」として定義し, その閉じた表現形を導いた. さらに, その結果を用いて, M/G/1型マルコフ連鎖の最終列増大切断近似の劣幾何収束性に関する過去の研究成果を補強し, 国際英文誌での論文採択にこぎつけた. 小課題③: M/G/1型マルコフ連鎖のレベル増分切断近似について解析を行い, 誤差の全変動ノルムが劣幾何的に収束するための十分条件と, その条件下での劣幾何収束公式を導いた. また, 幾何収束性についても解析を行い, レベル毎の幾何収束公式を導出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実績欄で述べたように, 2022年度は本研究課題に関する3つの小課題に取り組んだ結果, 以下のような論文実績を上げた. 小課題①: 本小課題に関する研究成果をまとめた論文1本が, 国際英文誌「Queueing Systems」に掲載された. 小課題②: 本小課題に関する研究成果をまとめた論文1本が, 国際英文誌「Applied Probability Journals」に採択された. 小課題③: 本小課題に関する研究成果をまとめた論文2本の内1本は国内英文誌「Journal of the Operations Research Society of Japan」に採択され, もう1本は国際英文誌「Operations Research Letters」に採択された. 以上の理由から,本研究課題の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
これまで(1・2年目), 安定性に関わる3つの量「増分平衡分布の裾減衰率」「エルゴード収束率」「定常分布裾減衰率」の関係性「安定性のトリニティ」に着目し, UBH型マルコフ連鎖の定常分布の準アルゴリズム的解構築法や, M/G/1型マルコフ連鎖のレベル増分切断近似の幾何・劣幾何収束公式, 同マルコフ連鎖の最終列増大切断近似の劣幾何収束公式などを示してきた. しかし, 本研究課題の目標の一つであった「最終列増大切断近似の幾何収束公式の導出」は, まだ達成できていない. また, GI/G/1型マルコフ連鎖における「安定性のトリニティ」の明示的かつ数学的な根拠について一定の成果を得ているが, まだ論文としてまとめる段階には到っていない. 3年目は, こうした未完成の仕事の完遂を目指す. くわえて, 可算状態マルコフ連鎖の近似列が, 定常分布の意味で, 元のマルコフ連鎖に収束するための必要十分条件に関して, 新しい結果につながる着想があるので, それについても検討を進めて行きたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大予防対策により,参加を予定していた国際会議・国内学会・研究集会などが中止またはオンライン開催になったため, 出張回数が計画当初の見込みと比べて減少し, 次年度使用額が発生した. 最終年度となる2023年度は, コロナ禍による制限が解除される伴って増える出張や, 共同研究を効率よく進めていく上で, コロナ禍収束後も欠かせないオンライン会議の環境整備など, 研究を着実に進捗させるべく効果的に助成金を使用する.
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