令和5年度には、超大規模組合せ最適化問題の統計モデルにおいて理論的に成り立つであろう定理(仮説)について考察した。この定理は、探索中における近傍操作の性能を示唆するものである。これまでは、基礎とする探索法を「局所探索法」に限定して研究を進めてきたが、この定理の適用範囲は局所探索法に限定されないため、今後は、「シミュレーテッドアニーリング法」のような局所探索法以外の手法に対しても、本研究のような考え方を応用することができると考えている。 具体的には、近傍操作により得られる解の「改善量」を正規分布と仮定し、また任意解の良さ(目的関数値)を正規分布と仮定すると、それらの正規分布の平均と分散が、ある関係を満たす必要があることに気づいたので、その関係を理論的に導出した。それらの仮定は、問題の規模が大きくなると成立することが期待できるが、実際に成立するかどうかは不明であったため、計算機実験により検証した。これらについては、電気学会電子・情報・システム部門大会で学会発表を行った。 補助事業期間全体を通じ、本研究では一貫して、近傍操作を選択しながら効率良く解の探索を進める手法について検討してきた。まず検討したのが、確率分布を度数分布表により表し、それを多項分布と捉えてベイズ推定を行うという方法である。しかし計算機実験を行ってみると、動作が不安定であることがわかった。そこで発想を転換し、階級を1つにまとめた度数分布表に相当するモデルを考案し、検討・考察を行った。これについては、計算機実験を行ったところ良い結果を得ることができ、学会発表を行った学生が技術委員会奨励賞を受賞した。その後は、手法の有効性を補強するための計算機実験を充実させる予定であったが、前述のように、より応用範囲の広い定理の存在に気づいたので、その導出ならびに検証を行った。
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