令和5年度の研究実績として,前年度の令和4年度に引き続き,大きく分けて以下の3つの内容について研究成果を得た. (1)単調欠測データの下でのスフェリシティ検定問題に対する尤度比検定統計量及び修正尤度比検定統計量について,漸近展開による検定統計量の分布の上側パーセント点の導出を行い,モンテカル・ロシミュレーションによる数値評価を与えた.関連して平均ベクトルと分散共分散行列の同時検定問題について,2-step単調欠測データの下でバートレット補正及び局所対立仮説に対する検定統計量の分布の漸近展開を与え,検出力について議論した. (2)多変量正規性検定問題については,Mardiaによる多変量標本歪度について,カイ二乗近似を改良する検定統計量の提案や多変量Jarque-Bera検定統計量の修正などを与え,モンテカルロ・シミュレーションによる数値評価を行った. (3)2-step単調欠測データの下での成長曲線モデルの適合性検定問題について,令和4年度では,検定統計量の期待値を評価することによって,F分布の自由度を調整するF近似を提案した.そこで,令和5年度では,期待値に加え,分散を評価することによって,さらなる改良となるF近似を与え,モンテカルロ・シミュレーションによる数値評価を行った.分散の評価の方法については,期待値の場合と同様に摂動法を用いて検定統計量を確率展開し,2次モーメントに対する漸近展開近似を与えている.関連して,平均ベクトルに関する検定について,2-step単調欠測データの下での部分平均ベクトルの検定問題や3-step単調欠測データの下での平均ベクトルの検定問題における統計検定量の帰無分布に対する漸近展開近似,さらには,カイ二乗近似のより良い変換統計量の提案などを行っている.
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