研究課題/領域番号 |
21K11797
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
原 尚幸 京都大学, 国際高等教育院, 教授 (40312988)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 統計的因果推論 / DID / VARモデル / FAVARモデル / 動的因子モデル |
研究実績の概要 |
今年度は、1. 処置前後データにおける処置群の因果効果の推定、2. 未観測共通原因を含む場合のVARモデルにおける因果探索という2つのテーマで研究を行った。 1. 処置の前後で、処置の有無と目的変数のデータが得られる場合、差分の差法を用いることで処置群の因果効果の推定が可能である。広告接触の効果を計測する場合などは、一定期間の広告接触の有無と、購買行動の関係から、広告効果の計測を試みるが、通常は調査開始時点での広告接触に関する情報が欠落している。調査開始前における処置を潜在変数としてモデルに組み入れることで、調査開始前の接触の有無の別ごとに、広告接触の効果を計測が可能になることを示した。 2. VARモデルにおける当期のデータ間の因果探索法には、既存のVAR-LiNGAMが知られているが、これは未観測共通原因が存在する場合には対応していない。一方、Stock and Watson (2001)の動的因子モデル以降、マクロの経済時系列データの分析においては、景気のような抽象的な要因を未観測共通原因として、モデルに組み込んで分析をする手法が発展してきた。FAVARモデルは動的因子モデルとVARモデルを融合したモデルで、VARモデルに組み込んだ潜在因子を、動的因子モデルで推定することによってモデルの識別を実現している。しかし、FAVARモデルは通常のVARモデルと同様に、当期の変数の値が、1期前以前のデータのみに依存する。そこで本研究では、FAVARモデルを、当期のデータ間の因果構造も考慮に入れる形に一般化したFAVAR-LiNGAMモデルを提案し、その識別性について議論し、推定法の提案を行った。さらに数値実験によって有用性の確認を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度もコロナの影響で移動に制約があった関係で、外部発表は予定どおりに進行していない面はあるが、研究は概ね予定通りに進展している。因果探索に関して言えば、FCIアルゴリズムの一般化については、まだ進行中である一方、その副産物としてFAVAR-LiNGAMモデルが得られるなど、当初の想定とは少し異なる方向ではあるが、進展としては順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた処置前後データにおける因果効果の推定手法のUplift modelingへの適用に関する研究を行う。近年は、処置変数が潜在変数になる場合におけるupliftの推定に関する研究も出始めているが、多くはRCTのような実験データの分析に関するものであり、交絡因子が存在する調査観察データの適用に関する議論は、まだ不十分である。そこで、処置変数が潜在変数の場合で、かつ共変量調整を考慮したupliftの推定手法の開発を目指す。 さらに、統計的因果探索では、FCIアルゴリズムとLiNGAMのハイブリッドの方式について考察を行う。PCアルゴリズムを未観測共通原因がある場合に一般化したFCIアルゴリズムは、model freeではあるが、因果構造を完全に識別することは一般に不可能である。一方、LiNGAMはモデルの制約はあり、未観測共通原因への一般化は不十分であるが、モデルが一定の条件を満たせば因果構造の識別は可能である。この2つをハイブリッドにすることで、FCIアルゴリズムを一般化し、モデル識別の解像度の向上を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
長崎大学で開催が予定されていた学会が、コロナの影響でオンライン開催となったことが原因である。今年度は、岡山大学、大阪公立大学の研究者との研究打ち合わせが複数回予定されているので、その旅費の一部として使用する予定である。
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