研究課題/領域番号 |
21K11802
|
研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
志村 隆彰 統計数理研究所, 数理・推論研究系, 准教授 (40235677)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 極値理論 / 正則変動関数 / 確率分布の離散化 |
研究実績の概要 |
本研究の目標は極値理論を極値統計で用いる際に生ずる理論と応用の間のギャップの解消であり、連続量を仮定した理論を実際の離散量に対して適用したときの解析精度の影響(悪化)に注目し、次の二つを考える。(1) 連続値を離散化したときの影響を定性的のみならず、定量的に求める。(2) 上記の影響を軽減する方法を見出し、より正確な統計解析の手法を提案する。 当面の目標は(1)である。極値統計では、吸引領域の条件をはじめ、確率分布Fの裾1-F(x)の上端点付近の漸近挙動が重要である。従って、連続分布FとFを離散化した分布Fdの裾挙動の違いを見ることが最初であり、これは正則変動性に関連した関数とそれを離散化した関数の違いの考察に帰着される。 初年度21年度では、確率分布の裾や切断積率にあたる[0,∞)上の単調連続関数f(x) の発散する単調増加数列{an} (n=1,2,…, a0=0)による離散fd (x)、すなわち、fd(x)=f(an) (an ≦x<an+1)に対し、limx→∞fd(x)/f(x)=1(fd ~f)となるかを考察した。すなわち、1. どのような関数fに対して、f1~fとなるか。(f1は数列an=nの場合で、データの丸めに相当する最も基本的な離散化)。2. 与えられた関数fに対して、fd ~fとなる数列{an}の条件を求める。これは解析精度に影響を与えない離散化の限界に相当する。 これらの問題に対して、指数が0でない正則変動関数fに対して、2の数列の必要十分条件がan+1~anであること、limsup an+1/an< ∞であれば、緩慢変動(指数0の正則変動関数)fに対し、fd ~fとなること、Γ変動関数に対しては、f1~f とはならないこと、Π変動関数で、f1~fであるための必要十分条件がlim f(ex)-f(x) = ∞であることなどの結果を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画通り進まなかった理由は、主にふたつある。ひとつは、多くの人に共通する新型コロナ感染症による活動制限である。パンデミックが始まって以来、感染防止のため、公私を問わず、極力人との接触を避ける生活を続けてきている。そのため、計画していた海外出張はもちろん、国内出張さえも全く出来なかった。代わりにオンラインでの国際会議に出席することで補うことに努めたものの、関連研究者との交流が不十分となったことは否めず、研究への悪影響は少なくなかった。 もうひとつは個人的な事情である。21年度は、稀で深刻な疾患が発覚し、急遽、手術、入院することになった。これは全く想定外であり、年度の期間の多くを通じて、検査や治療に非常に多くの時間を割かざるを得なくなってしまった。この疾患のみならず、申請時は予想していなかった労力を要する業務がいくつも生じたことも大きかった。
|
今後の研究の推進方策 |
基本的に当初の研究計画の変更はないが、遅れている進捗を少しでも取り戻すようにしたい。22年度はおそらく感染状況が改善され、活動制限も緩和されることが見込まれるので、ある程度の国内出張は出来るようになると予想している。海外出張ができるかどうかはわからないが、オンラインをうまく活用して、研究を進めたい。依然、健康の問題は残っていて、初年度のように治療に多くの時間を要することはないと思われるので、十分に注意しながら、前年度の遅れを取り戻すべくこれまで以上に努める所存である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究計画遂行のために申請した経費の多くは、研究集会での研究発表、関連研究者との交流のために使用することが目的であった。しかるに、新型コロナ感染のため、21年度の、研究集会への全てオンラインとなり、海外出張はもちろん、国内出張も一切できず、結果、旅費の支出がなかったことが、次年度使用額が生じた理由である。翌年度(22年度)の予測は難しいが、状況の改善を期待して、21年度の遅れを取り戻すべく積極的な研究活動を行うために経費を用いたい。
|
備考 |
研究発表「離散化された関数の性質」統計数理研究所 統計数理セミナー 2021.12.22
|