研究課題/領域番号 |
21K11823
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
佐伯 元司 南山大学, 理工学部, 教授 (80162254)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 要求獲得 / 要求進化 / グラフデータベース / 不吉な臭い / 版管理 |
研究実績の概要 |
本年度は,以下のような研究を行った. 1)質疑応答プロセスにおける要求進化過程中の不具合の検出法と進化する要求リストの版管理支援の研究:昨年度で構築した図書館業務の要求分析者とステークホルダ間の質疑応答プロセスデータベースをもとに,プロダクト部分(要求リスト)とプロセス部分の進化を分析した.前者についてはプロセスの進行に応じて進化していく様を版管理の考えで分析可視化する機構,後者については質疑応答プロセス中の同じ質疑応答の繰り返しなどの進化を妨げる兆候を検出するクエリを実現し評価を行った. 2)波及解析のための要求仕様書文の意味的類似性検出手法の開発:1つの要求文の変更に伴い,要求仕様書の別の文へその影響が波及する.このような要求進化に伴う波及を検出するために,前年度のユースケース記述での成果をもとにDoc2Vec,Word2Vecで要求文の意味をベクトル化し,ベクトル間のcosine類似度を計算し,類似度の高い文に波及が及ぶとし,評価実験を行った.その結果,平均適合率で0.3を得た. 3) ゴール指向要求分析法iStarにおける不吉な臭いの検出:iStarは達成すべきゴールの詳細化関係やステークホルダの依存関係を段階的に明らかにしながら,要求獲得を行っていく.しかしながら明確な指針がないため,分析者によっては成果物であるiStarモデルに不吉な臭いと呼ばれる品質低下の潜在的な問題を引き起こす兆候が現れる.このような不吉な臭いを検出し,iStarモデルの水平的進化を支援するために,不吉な臭い検出の自動化ツールを開発し評価を行った.評価実験の結果,構造的な不吉な臭いである箇所は100 %,意味的な不吉な臭いである箇所は 76 %を検出でき,人間が見落とした意味的な不吉な臭いも指摘することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水平軸方向の(要求の詳細化)については,要求獲得の質疑応答プロセスと得られた要求リストを関連付け,プロセス中の発話行為とそれによる詳細化の組で進化操作をグラフデータベース上での操作とし,進化過程の蓄積と検索を行うツールの実装を行った.さらにゴールモデル上の不吉な臭いが質のよい進化を妨げているという考えのもとで,不吉な臭いとそれを改善するための詳細化を分析し,進化すべき箇所の検出を支援する手法を開発し評価を行った.垂直軸(要求変更による改版)方向の進化については,自然言語文章の意味的類似度に基づく波及解析による進化支援を行うツールを開発し評価を行った.要求獲得プロセスと,ゴールモデルと自然言語文という異種の要求記述での進化を総合的に捉えることにより,全体としては順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
機械学習技術を適用し,各支援ツールのさらなる自動化と高性能化をはかる.また,不吉な臭い改善の観点での進化操作のモデル化を進め,要求獲得プロセスからの進化とそれに伴う要求詳細化の事例分析と評価を進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で学会等の出張の自粛のため,成果発表や研究打合せにかかる費用が消化できなかった.同様に謝金を用いた支援ツールの評価や事例分析の一部が先送りになった.次年度は,評価,事例分析を進め,グラフデータベースによる実装システムの洗練化,波及解析ツールなどの評価,成果発表に研究費を使用する予定である.
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