本研究では、センシング、情報処理、通信の全てをパルス信号で実施する脳型無線センサネットワークによる情報基盤の確立を目指し、リザバ計算の応用によってパルス信号授受のダイナミクスから観測値の空間分布などの詳細な情報を高い精度で取得することを目的としている。令和5年度においては、令和4年度に提案したセンサ・アクチュエータ型の脳型無線センサネットワークの検証に取り組んだ。本ネットワークを構成するノードは、ニューロンモデルにもとづいた仮想的な膜電位のダイナミクスによってパルス信号を発信する。センサによる観測値が閾値を超えた場合には膜電位に電流が加わりパルス送信を促進する。周囲のノードの膜電位がパルス信号の受信によって変化することで、領域の状態に応じたパルス発信のダイナミクスが生まれる。領域内の任意の位置に存在するアクチュエータがその周囲のノードのパルス送信状態を観測することによってイベントの発生を検知し、イベントに応じた制御を実施する。このような設定では、アクチュエータが観測可能な読み出しノードがその周囲に限られるため、リザバ計算による情報抽出に利用できるパルス発信状態の多様性が低下し、イベント検知が困難になるという問題があるが、読み出しアルゴリズムやノード構成の工夫により、アクチュエータの位置によって20.72%(四隅)~82.81%(中央)のイベント検知率を達成した。さらに、古典的な無線センサアクチュエータネットワークにおいてイベント情報をネットワーク全体にフラッディングする場合と比較した結果、脳型無線ネットワークでは自発的なパルス発信によって定常的な通信が発生するものの、およそ51秒よりも短い間隔で頻繁にイベントが発生する環境において、より通信量を低減できることを明らかにした。
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