研究課題/領域番号 |
21K11887
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
河内 亮周 三重大学, 工学研究科, 教授 (00397035)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 秘密計算 / 秘密同時通信プロトコル / 量子信号処理 |
研究実績の概要 |
2023年度の活動では,秘密計算プロトコルの対象として量子計算のフレームワークに着目し,汎用的な関数計算が省計算資源で計算できるプロトコルの研究を進めた.特に量子アルゴリズムの汎用的な設計手法である量子信号処理に基づいた秘密計算プロトコルの設計を行った. 量子信号処理は量子計算機上で効率の良い量子力学系のシミュレーション(ハミルトニアンシミュレーション)を実現するなど広い応用を持つが,最近Maslovらがこの量子信号処理を応用して1量子ビットのみを利用して任意の対称関数を計算するアルゴリズムを構成した.対称関数はパリティ関数,閾値関数,多数決関数など実用的にも重要な関数を含む重要な関数クラスである.Maslovらのアルゴリズムは量子回路上でライン型の計算パターンを持つが,このアルゴリズムをスター型のネットワークで実現するプロトコルを構成した.その結果として最終的な集約計算を行うサーバが1量子ビットのみの秘密同時通信プロトコルと呼ばれる秘密計算プロトコルを与えることができた.さらにこのプロトコルの安全性証明および通信効率の解析を行い,通信効率と誤り確率のトレードオフを示した. さらにその技法をCosentinoらの1量子ビットプログラムと呼ばれる量子アルゴリズムに適用することで,対称関数を含む任意の論理関数を計算する1量子ビットの計算サーバによる秘密同時通信プロトコルを構成し,その安全性と通信効率の評価を行った.このプロトコルの通信効率は対象となる関数を計算する論理回路の深さに対して指数関数的に増加するため,浅層回路で計算できる関数であれば効率の良いプロトコルとなり得ることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの知見に基づいて重要な関数を多く含む広い関数クラスである対称関数についての秘密計算プロトコルを構成することに成功し,その安全性証明と効率性の解析も与えることができた.その構成方法はライン型の計算パターンを持つアルゴリズムからスター型トポロジーを持つプロトコルに変換するという新しいフレームワークを与えており,今後他のプロトコル構成にも有用な知見をもたらす方法であると考えられ,研究の順調な進展を示していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度はこれまでの研究で得られた秘密計算プロトコルの理論的な知見を踏まえ,より実践的な応用について秘密計算プロトコルの適用を目指す.特に応用先の分野としてマルチパーティでの最適化を行うマルチエージェントによる自動交渉を検討する.当該分野では先駆的な研究において,少数ながら自動交渉における各エージェントのプライバシーを保護する試みがあることが分かったが,秘密計算プロトコルの観点からはプライバシー保護が十分でない点もあり,改善の余地が見込まれる.
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