整合析出物が作る内部応力を計算する重合メッシュ法(以下SFEM)と,内部応力中での転位の挙動をシミュレートする転位動力学法を組み合わせた合金強度シミュレータを開発した.SFEMを用いることで,任意の形状と分布を有する析出物のモデリングが飛躍的に簡易化することに成功した.内部応力を精度良く計算し,さらに内部応力中での転位を精度良く計算するためのSFEMにおける析出物ローカルメッシュの作成条件および転位動力学法への実装の条件(ボクセルメッシュの大きさの条件)を明らかにした.これにより,本シミュレータによって精度良く合金強度を計算することが可能になった. 合金の強度に対する析出物の形状の影響を調べるために,球状,棒状,円筒状の析出物を用意し,それぞれの形状(アスペクト比)を変化させて転位の運動に与える抵抗(臨界分解せん断応力)を計算した.その結果,析出物の形状に加えて,転位のすべりに対する析出物の方向が重要な役割を果たしていることがわかった.これは,析出物の方向により転位のすべり面上での分解せん断応力の分布が大きく変化することによる影響である. 析出物の体積分率を変化(最大で1%)させた合金の微視組織のモデルをSFEMを用いて作成し,析出物の体積分率と分布の影響を調べた.析出物の体積分率が大きいほど,転位が移動するために必要な臨界分解せん断応力が大きくなることを確認した.また,析出物を分布させたモデルにおいても,球状の析出物が分布した場合の方が円盤状の析出物が分布した場合よりも臨界分解せん断応力が高くなることがわかった.しかし,両者の差は,転位が一つの析出物と相互作用する場合と比べて小さくなっていた.これは,球状の析出物よりも円盤状の析出物の方が転位とぶつかる確率が高いためであると考えられる.このように析出物の形状と分布が合金強度に対して重要な役割を果たしていることを確認した.
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