研究課題/領域番号 |
21K11975
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
三末 和男 筑波大学, システム情報系, 教授 (50375424)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 情報可視化 / グラフ描画 / 部分エッジ描画 / モーフィングエッジ描画 |
研究実績の概要 |
モーフィングエッジ描画(MED)は、ネットワーク図におけるリンク(グラフ理論では「エッジ」とよぶ)をアニメーションで変化させる動的な表現手法である。線分の視覚的な交差を減らすために部分描画されたリンクを、モーフィングによって伸縮させることで、部分エッジ描画における省略部分を読み手が推測する負担を軽減できる。しかしながら、伸縮の待ち時間が長くなると、読み取り時間も長くなるため、モーフィングの周期が長くならないようにする工夫が必要である。2022年度は前年度から継続して、周期の短縮を目指して、スケジューリング要件のバリエーションを検討し、スケジューリングアルゴリズムの3種類のバリエーションを完成させた。バリエーションは、(1) すべてのエッジが最短の状態に戻る前に次の周期を開始する、(2) 交差を発生させずに可能であれば1周期中に2回以上の伸縮を行う、(3) 交差数を増やさないという条件を緩めて、瞬間的な交差数を各エッジにつき最大k(たとえば、k=1や2)までは許容することにする、というものである。この成果を論文にまとめ、グラフ描画に関する国際会議GD2022で発表した。 MEDは部分エッジ描画をベースにモーフィングを導入したことから、リンクの表現には単色の実線を利用しているが、リンクの色を変える、補助図形を追加するなどの表現形態のバリエーションにより、ネットワークの可読性が向上する可能性がある。まずグラデーションを時間変化させるようなモーフィングを設計し、その表現を定式化した。他にも、表現形態のバリエーションを検討したが、それらについてはモーフィングの前段階として、静止画の状態における有効性を確認すべきと考え、部分エッジ描画(PED)における表現形態のバリエーションを設計するとともにそれらの有効性を確認するための評価実験を実施した。成果は修士論文や卒業論文としてまとめた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第1は、MEDのスケジューリングに関して、(1) すべてのエッジが最短の状態に戻る前に次の周期を開始する。(2) 交差を発生させずに可能であれば1周期中に2回以上の伸縮を行う。(3) 交差数を増やさないという条件を緩めて、瞬間的な交差数を各エッジにつき最大kまでは許容することにする、というバリエーションの導入を進めていたが、予想以上に難易度が高く、昨年度末に完成していたと思っていたアルゴリズムの見直しに多くの時間を費した。国際会議GD2022に14ページのフルペーパーとして採択されたものの、2022年度に入ってもアルゴリズムの見直しおよび評価実験のやり直しに追われた。 第2は、MEDではなく、静止画であるPEDに関して多くのバリエーションを検討したことで、MEDの拡張にまでは進まなかった。モーフィングの表現形態のバリエーションの検討にあたり、あらかじめ有効性を見積もるために、静止画の状態におけるバリエーションの有効性を確認することから始めたためであるが、視覚的表現のバリエーションを設計するには、妥当な手順である。学生の協力を得て、静止画に関してではあるが、様々なバリエーションを発案できたことは、新しい成果につながるものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
スケジューリングのバリエーションを含めて、MEDの有効性の評価を行う。そもそもPEDをモーフィングによって変化させることが可読性にどう影響を与えるかという点も明確になっていなかったため、MEDに関する有効性の知見を基本から整理しなおし、グラフの規模と可読性の関係、モーフィングの速度と可読性の関係、交差の有無と可読性の関係など、様々な観点で評価を行う。 2022年度に検討した表現形態のバリエーションをMEDに導入し、モーフィングの設計、交差の概念の拡張、それを踏まえたスケジューリングアルゴリズムの開発などに取り組む。たとえば、エッジの一部を省略する代りに、線分の透明度を段階的に高くすることでエッジ中央付近を見えなくする表現を定式化したが、この場合には、透明度を無視すれば常時交差しているとも言えるため、透明度の導入にともなう新たな交差の概念を定義する必要がある。そして、その新しい「交差」に基いて、「交差」を回避するスケジューリングを設計する必要がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19により関連国際会議がオンライン開催となり、当初予定していた旅費分を執行しなかったことが主な要因である。2022年度は関係国際会議に現地参加したが、その内のひとつ国際会議GD2022は、東京開催であったこと、さらには基調講演に招待されたことで参加費や宿泊費が軽減されたこともあり、余剰が発生した。2023年度は関連国際会議が対面型による開催となるため、積極的に現地参加を検討し研究者間の情報交換を促進する。
|