研究課題/領域番号 |
21K11988
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
大久保 雅史 同志社大学, 理工学部, 教授 (10233074)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒューマンコミュニケーション / ノンバーバル情報 / 情報の伝達度 / 情報の伝達感 / 注意資源配分 |
研究実績の概要 |
人のコミュニケーションにおいては,人の注意資源が何に割かれるかが情報の伝達に大きな影響を与える.例えば,Face-to-faceのコミュニケーションでは,ノンバーバル情報に多くの資源が割かれ,そのことがコミュニケーションの円滑化に寄与していると言われている.すなわち,Face-to-faceのコミュニケーションでは,バーバル情報だけでなく,ノンバーバル情報の送受信とそれらへの注意資源の配分が情報伝達の質に影響していることが考えられる.一方で,コミュニケーションの質を対話者間で正確に伝わった情報量である伝達度と,それぞれの対話者が正確に情報の伝達ができたと感じる伝達感で測かる必要性が言われている. コロナ禍でFace-to-faceのコミュニケーションが抑制されている代替えとして,ビデオコミュニケーションが多用されている.さらに,この2年ほどの間にビデオコミュニケーションは,コミュニケーションの一手段としての地位を確立しつつある. そこで本研究では,ビデオコミュニケーションの質に及ぼす因子を明らかにするとともに,対話者の注意資源が何に向けられており,それを基にFace-to-faceコミュニケーションとの違いを検証するとともに,ビデオコミュニケーションの特性を明らかにすることを目的としている. 本年度は,様々な情報提示手法を用いてビデオコミュニケーション実験を行い,伝達感,伝達度の観点から検証している.1対多のコミュニケーションにおいて,カメラをオンにするなど他者からのアウェアネス情報が話し手からの情報伝達に及ぼす影響について検証している. また,聞き手側のモニターへの表示方法について,リアルな空間を提示した場合と分割された空間を提示した場合で比較検証を行っている. これらの結果は,ヒューマンインタフェース学会研究会で報告する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍で対面実験を実施することが難しかったため,ビデオコミュニケーションとの比較検証については,少々遅れているが,ビデオコミュニケーション環境での対話実験は十分に実施できた. ビデオコミュニケーションにおける他者からのアウェアネス情報が話し手からの情報伝達に及ぼす影響の実験では,実験の結果から,他者の映像を視認できることによる情報認知負荷の上昇が,話し手からの伝達感にネガティブな影響を及ぼす可能性が示唆された.一方で,他の受講生の自然なうなずき動作が伝達度・伝達感にポジティブな影響を及ぼす可能性も示唆された. また,他者の映像を提示することが,情報の伝わり方や他者存在感に及ぼす影響を検証した.実験では,教室全体が映り,他の受講生がいる動画(全体人あり条件)・教室全体が映り,他の受講生がいない動画(全体人なし条件)・講義スライドと他の受講生が映る動画(個別人あり条件)・講義スライドのみで他の受講生が映らない動画(個別人なし条件)の4種類の講義動画を視聴させた. 実験の結果,伝達度・伝達感に関して,各条件間に統計的な有意差は見られなかったが,全体人あり条件において伝達度が高くなり,個別人なし条件において伝達感が高くなる可能性が示唆された.また,人あり条件の方が人なし条件より他者存在感を感じられることが示された. このように,ビデオコミュニケーションにおけるコミュニケーションの質に関わる因子の検証は進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
Face-to-faceコミュニケーションにおいては,対話者と空間を共有しているため,対話者の注意資源のほとんどがコミュニケーションに向かっていると考えられる.一方,ビデオコミュニケーションにおける注意資源は,例えば,視覚について考えるとモニター画面に向かっているとしても2次元の情報であるため,対話相手のリアルを感じることができず,また受け取れるノンバーバル情報が抑制されるため,すべてがコミュニケーションそのものに向かっているとは限らない.そこで,例えば,Face-to-faceとビデオコミュニケーションで対話者の視線の動きを計測することにより,注意資源が向けられる場所,時間,などを計測し,比較検証する.このように対面での実験を実施することにより,ビデオコミュニケーションの特性を明らかにしていくことを予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度において,コロナ感染が予想以上に収束せず,学会,国際会議などがすべてオンラインで開催された.そのため旅費が計画通りに執行できなかった.そこで,2022年度は,ヒューマンインタフェース学会のシンポジウムや研究会で積極的に成果を報告する予定である.また,2021年度に実施予定であった対面での実験を再開し,それにともなう謝金などを計上している.
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