温冷刺激デバイスは、従来はデバイス全体が一様に温度変化し1次元的であるが、2次元の温度分布を再現することで、刺激がもたらす効果の向上や刺激提示の効率化が期待できる。本研究は、2次元の温冷分布刺激デバイスの設計指針を得るために、温冷感覚の時間分解能と空間分解能を解明する。得られた知見の応用例として、複数のペルチェ素子をマトリクス配線・制御した温度分布刺激デバイスを設計、試作する。これにより、本研究により得られる知見の妥当性と有用性を示す。 最終年度は、2年目に得られた時間分解能の評価結果の工学的応用として、音声信号を活用した触感伝送システムを開発した。温度感覚の時間分解能が数Hz未満であることから、温度変化波形の周波数成分を高周波信号に変調し、振動波形と一緒に音声信号としてテレビ会議システムで伝送する。これにより、映像と音声に加え振動と温度の触感を含む遠隔コミュニケーションを可能とした。さらに、試作した4x4のペルチェマトリクスを用いて温度刺激による触感を評価し、複数のペルチェ素子による冷刺激の時空間パターンにより異なる印象の触感を提示し得ることを確認した。また、ペルチェマトリクスのフレキシブル化に向けてペルチェ素子を試作した。 以上より本研究では、人の温冷感覚の時間分解能や空間分解能を評価、それらの知見を活用し温度分布刺激デバイスを試作、温度刺激の時空間パターンが触感提示に有用であることを確認した。さらに、人の温冷感覚の時間分解能の評価結果に基づき、音声信号として振動と温度の情報を伝達可能なシステムを構築、温冷感覚の知覚特性に関して本研究から得られた知見の工学的な有用性を示した。
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