研究実績の概要 |
本研究課題では、グラフ構造を持ったデータ、例えば化学化合物の分子構造や社会学におけるソーシャルネットワークなどが、どのように生成され、変化していくかというグラフの動的な構造的変化を直接扱うことができる形式体系として確率的形式グラフ体系の導入を行い、その学習理論を構築することを目標とする。2021年度は、確率的形式グラフ体系の学習理論の基盤を確立するために、計算論的学習理論における学習モデルである(1)質問学習と(2)PAC学習で、形式グラフ体系とその項となる項木パターンの学習アルゴリズムの計算量を議論した。具体的には次のとおりである。 (1)質問学習において, 先行研究では、線形順序項木パターン言語族が1つの正例と正例のサイズの2乗回の所属性質問を用いて質問学習可能であることが示されている。本研究課題では、線形順序項木パターン言語族の部分族が、1つの正例と正例のサイズの線形回の所属性質問を用いて質問学習可能であることを示した。 (2)PAC学習は確率的で近似的に正しい学習の数学的解析フレームワークである。本研究課題では、形式グラフ体系のPAC学習可能性を議論した。まず、変数独立な遺伝的形式グラフ体系言語のクラス(VHFGS)を定義し、VHFGSの階層をVHFGS(m,s,t,r,w,d)で表現した。ここで、m,s,t,r,w,dはそれぞれグラフ書き換え規則の個数等の形式グラフ体系の表現におけるパラメータ群である。さらに同クラスに属す形式グラフ体系言語のサブクラスとしてVHFGS^{ind}_{k}(m,s,t,r,w,d)を導入した。ここで、kは同クラスに属す形式グラフ体系により生成されるグラフの木幅の最大数を表す。本研究課題では、VHFGS^{ind}_{k}(m,s,t,r,w,d)が、もしm,s,t,r,w,d,kが定数ならば多項式時間PAC学習可能であることを証明した。
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