研究課題/領域番号 |
21K12040
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
堀口 由貴男 関西大学, 総合情報学部, 教授 (50362455)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 睡眠計測 / 信号源分離 / 時系列解析 / 時空間データ解析 / パターン抽出 / 知的情報処理 |
研究実績の概要 |
本研究は,睡眠障害の手がかりが睡眠中の身体の大小さまざまな動きの中に含まれているとの仮説の下,非干渉型の計測装置で取得した高空間分解能の体圧分布時系列から,各種の睡眠障害を特徴づける時空間パターンを抽出するデータ解析技術を開発することを目的とする. R3 (2021) 年度は,睡眠時体圧分布時系列からの信号分離技術の開発に取り組み,一般化モルフォロジ成分分析(Generalized Morphological Component Analysis; GMCA)の手法を応用して,呼吸努力波形とその空間分布を体圧分布時系列から分離抽出するアルゴリズムを試作した.また,体圧分布時系列の計測と同時並行で測定された呼吸インダクタンス・プレチスモグラフ(Respiratory Inductance Plethysmograph; RIP)信号を対象に,特異スペクトル変換(Singular Spectrum Transformation; SST)の手法を応用して呼吸努力波形の変化点を検出し,無呼吸や低呼吸が発生している時区間を推定するアルゴリズムを試作した.これらの取り組みについて特許出願を済ませ,後者の取り組みについては国内会議において研究発表を行った. 睡眠中は意識を喪失しているため,異常が生じても本人の自覚症状に乏しい.そのような睡眠の問題に対する調査や処置効果の継続的確認の方法として,在宅環境等で普段どおりの睡眠をとる中で,症状に関する計測情報が自然と収集されることが理想である.体圧分布時系列における異常時区間の検出技術は,このような課題に対する解決策として有望である.前述の二つの取り組みは,目的とする検出技術の主要な構成要素となる.体圧分布時系列から得られた呼吸努力波形に対して異常発生時区間抽出処理が適用できるように,これらのアルゴリズムをうまく統合することが次の課題である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
以下に述べるとおり,アルゴリズム開発については,既有のデータセットを利用することで当初の研究計画にほぼ沿う形で進めることができている.一方で,新型コロナウイルス感染症の流行の影響により,新たなデータセットを収集する実験が実施できなかった.そのため,計画に対して「やや遅れている」と評価した. 体圧分布時系列からの呼吸努力波形抽出のために開発したアルゴリズムは,同時計測された複数の圧力変動の時系列を,共通する少数の『源信号』波形の線形和にそれぞれ分解する.その際,呼吸運動に関する時系列成分を特定の源信号に集めるために,それぞれが受け持つ周波数帯域が適切に区分されるようにして各源信号を初期化する.この方法によって体圧分布時系列から抽出された呼吸努力波形は,他のブラインド信号源分離手法と比較して,おおむね良好な RIP 信号との類似性を示した.ただし,無呼吸や低呼吸などの特異な呼吸努力波形がうまく抽出できているかどうかについては,より詳細な調査・検討が必要である. 呼吸努力波形に含まれる無呼吸や低呼吸などの異常発生時区間の抽出処理のために,変化点検出手法の一種である SST を応用して,時系列を動態の異なる複数の『分節』に分割するアルゴリズムを開発した.動態が類似する分節同士をグループ化することによって,正常な呼吸と異常な呼吸を区別する時系列的な特徴を調査できるようになることが期待される.現時点では RIP 信号を対象とする検討しかできていないため,体圧分布時系列から抽出された呼吸努力波形へのアルゴリズム適用を試みる必要がある. アルゴリズムの開発は既有のデータセットを活用することである程度まで進めることができるが,検証を厳密に行うためには,睡眠ポリグラフ(polysomnography; PSG)検査とともに計測された体圧分布時系列のデータセットが必要である.
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今後の研究の推進方策 |
体圧分布時系列からの呼吸努力波形とその空間分布の分離抽出処理について,無呼吸や低呼吸などの特異な呼吸波形と正常な呼吸波形を適切に区別して抽出できるかを評価の観点としてアルゴリズムの改良に取り組む.そのために,PSG 検査と並行して計測された体圧分布時系列のデータセットを作成し,処理結果の PSG 検査データとの整合性をみながら,アルゴリズム拡張の検討を進める. 次に,体圧分布時系列から得られた呼吸努力波形に対して異常発生時区間抽出処理が適用できるように,二つのアルゴリズムの組合せ方法について検討する. その後,呼吸努力波形の時系列特徴だけでは捉えることが難しい呼吸異常の特性を調査するために,呼吸努力波形の空間分布について分析することを検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行の影響により新たなデータセットを収集する実験が実施できなかったため,旅費と研究協力謝金(人件費・謝金)と睡眠脳波解析サービス利用料(その他)の予算が消化できなかった.その結果として,次年度使用額が生じている.R4 (2022) 年度は,当初計画よりも多くデータ収集実験を実施することで,当該予算の使用を進める予定である.また,PSG 検査とは異なる方法によるデータ収集についても検討し,その準備と実施のための費用に予算を充てることも検討する.
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