研究実績の概要 |
長さnのk(≧2)進ネックレスとは,{0,1,...,k-1}上の有限列であって,巡回シフトに関する同値類の内,辞書式順序で最小の系列である.長さnのk進ネックレスの総数は古くから知られている[Redfield,1927].非周期的なk進ネックレスから成る多重集合の数え上げ[Gessel,1981]は,巡回構造を有するカード・シャッフルの確率分布を導出するのに応用された[Diaconis et al.,1991].先頭の1文字と末尾の1文字を固定した両端固定k進ネックレスの数え上げは,従来用いられた代数的接近法を適用することができないため,本研究代表者が知る限り,Redfield以来未解決であった.本研究では,長さnの両端固定k進ネックレスの総数を記号力学系およびβ進展開に基づき数え上げた.ここでβはβ>1の実数である. 最近,任意の自然数nに対して,O(n)のメモリを用いて,1ビット当たりならし計算量O(1)で,長さk^nの,単一のk進 de Bruijn 系列を生成するという驚く程高効率なアルゴリズムが発見された[Sawada et al., 2017].k進変換の超離散化である de Bruijn 系列の規格化自己相関関数は,時刻t=0に値1を取り,t=0を除く-n<t<nにおいて値0を取るという零相関帯(ZCZ (Zero Correlation Zone))を有することが知られている.本研究で得られた長さnの両端固定k進ネックレスの総数に基づき,任意のnに対して,Sawadaらのアルゴリズムにより生成される長さk^nのk進 de Bruijn 系列のt=|n|における自己相関関数値を評価し,その公式を導出した.さらに,nが十分大きいとき,t=|n|における規格化自己相関関数の漸近挙動を明らかにした[IEICE Technical Report,2022].
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
k進ネックレスの数え上げは組合せ論の対象に留まらず,その結果を応用する分野は確率論,統計学,力学系,系列生成等と多岐に渡る.両端固定k進ネックレスの数え上げはk進ネックレスの数え上げの自然な拡張である.本研究では,任意のnとkに対して,長さnの両端固定k進ネックレスを数え上げ,その一応用として,Sawadaらのアルゴリズムで生成された長さk^nのk進 de Bruijn 系列の,時刻t=|n|における規格化自己相関関数の公式を導出した.本研究で得られた長さnの両端固定k進ネックレスの総数は組合せ論に貢献する基本的な結果であるので,今後,様々な分野への応用が期待される. k進変換の超離散化であるde Bruijn系列は,系列長に関して,その個数が指数関数的に増大するという優れた特性を有し,その自己相関関数は上で述べたZCZを有するので,様々な分野で用いられている.しかしながら,de Bruijn系列の自己相関関数のZCZ以外の特性は,k=2の場合の上界しか知られておらず[Zhang & Chen, 1989],本研究代表者がk=2の場合の下界を求めた[NOLTA,IEICE, 2011].さらに,本研究代表者は,k=2の場合に,任意のnに対して,Sawadaらのアルゴリズムで生成されたde Bruijn系列の,時刻t=|n|における規格化自己相関関数の公式を導出した[SITA2019].本研究において,[SITA2019]の結果を一般のk≧2の場合に拡張し,任意のnに対して,Sawadaらのアルゴリズムで生成される長さk^nのk進de Bruijn系列の,t=|n|における規格化自己相関関数の公式を導出し,さらに,nが十分大きいとき,t=|n|における規格化自己相関関数の漸近挙動を明らかにしたことは,de Bruijn系列の自己相関関数研究に貢献したといえる.
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