研究課題/領域番号 |
21K12058
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 麗璽 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (20362296)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ロボット聴覚技術 / 生成モデル / 鳥類の鳴き声 / エージェントベース進化モデル / 生態音響学 / 人工生命 |
研究実績の概要 |
本研究は,生成系機械学習モデルの豊かな表現力と,構成論的進化モデルを融合した,生態音響エージェントベースモデルを構築し,鳥類音声に関するフィールド調査とも連携して複雑な生態音響進化シナリオを探ることを目的とする. 本年度は,前年度におけるキンカチョウの歌の音素を性選択の対象とした進化モデル,野生のウグイスに対する人工生成鳴き声を用いたプレイバック実験を具体例として,提案する生態音響エージェントベースモデルに基づく実験とモデルの融合の方法論を明確化した.この方法論に基づき,カリフォルニアに生息する野鳥であるホシワキアカトウヒチョウの鳴き声を対象として,これまでの取り組みにおいて取得した同種の鳴き声録音を用いた鳴き声潜在空間を作成した.これを用いて,野生個体に対してプレイバック実験を行い,オリジナルの音声が分布する特徴空間の中心付近から生成される鳴き声は警戒を誘発するが,遠く離れた鳴き声には反応を示さず,潜在空間が鳴き声における同種判別の特徴をとらえていることが判明した.一方で,潜在空間上ほぼ中央の位置であっても警戒を引き起こさない場合があるなど,より繊細な音響構造が個体に与える影響がありうることも示唆された.進化実験によって選択されがちな形質に関しても野生個体の反応は示されたが,より詳細な実験が必要なことが明らかになった. また,構成的モデルにおける音響的相互作用の進化ダイナミクスの理解のため,3次元仮想生物間の資源共有問題における音響相互作用の進化モデルの分析を進めた.特に,音響ニッチ仮説に基づく複数種間での時間・周波数領域での発生音のすみわけの進化を確認した.さらに,ロボット聴覚技術に基づく鳥類観測に関する研究を進め,観測技術の向上を図った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は,進化モデルと歌生成モデルを融合した実際に音声として再生可能な歌の進化モデルと,そこから創り出した生成音を用いたプレイバック実験に基づく生態調査を概念的に接続した枠組みを,対象となる種は異なるものの実例とともにまとめ上げ,人工生命の国際会議において採録・発表できたことは大きな成果であった.同時に,この方法論に基づいて,海外共同研究先の調査地において,ホシワキアカトウヒチョウを対象とした進化モデル実験と予備的プレイバック実験を行い,進化的に生成した音声が個体に与える影響の違いをロボット聴覚技術で計測可能であることが示唆されたことも大きな進展であった.また,関連するモデル研究として,仮想生物を用いた音声コミュニケーションの進化において,実生態において遍在する音響ニッチ仮説に基づく棲み分けが創発することが示され,仮想生物と生態との相互作用についても可能性があることが示されたのも進展である.以上から,総じて順調に進展しているといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
今回良好な結果を得ることができたホシワキアカトウヒチョウの歌を題材にした進化モデル・プレイバック実験の枠組みを発展させ,継続して調査・実験を進める.特に,性選択において選択されがちであった歌とそうでない歌を題材とし,実際の鳥類の歌に対する反応の大きさ(歌としての影響の大きさ)がどのようであるかを検討する.また,近年進展著しい生成AIと自然環境との相互の関係調査の一例として,一見して歌要素を含んでいない,もしくは,わずかしか含まないような歌等,様々な生成歌に対する鳥類の反応を調査する.さらに,進化モデルの条件として,環境構造の影響などを盛り込むことで,より多様な進化の可能性を検討できる枠組みに発展させることを検討する.また,国内の調査対象種としてウグイスやオオルリなどの多様な鳴き声に基づく生成モデルの構築と実験も検討し,多様な種に対して同様なアプローチで議論が可能か,調査分析を進め,一般的な知見を得る.
|
次年度使用額が生じた理由 |
分析機器(進化計算・深層学習計算機)の再検討により次年度使用額が生じた.また,コロナ禍後の調査・学会発表等に費用が掛かることが見込まれる使用計画である.
|