本研究の最終年度では、数字の処理に伴う左右空間への注意の移動と、それに関わる神経基盤を調べる研究を行った。具体的には、被験者に小または大きな一桁の数字を視覚的に呈示した後、左右いずれかの視野への視覚刺激の呈示、または、左右いずれかの人差し指への触覚刺激の呈示を行ってもらうという課題を行なってもらい、それらの刺激に対してなるべく早く刺激が呈示された方に設置されたボタンを押してもらうことで、その反応時間を測定した。また、被験者にこの課題を与える前に、被験者の左頭頂連合野に陰極電極を、右の頬骨に陽極電極を当て、シャムまたは2mAで頸頭蓋直流電気刺激(tDCS)を行った。海外の報告によると、小さい数字を呈示すると、左空間に注意が向くためか、左空間への刺激(主に視覚刺激)に対する反応時間が短くなり、大きい数字を呈示すると、右空間への刺激に対する反応時間が長くなるという。しかしながら、本研究では、シャム刺激時には海外研究と同様な結果は得られなかった。本研究のような研究結果は日本からはほとんど報告がないが、これがその理由かもしれない。しかし、2mAで頭頂連合野でtDCSを行ったところ、視覚刺激を用いた課題では、小さい数字を呈示した時より大きい数字を呈示した時に反応時間が短くなる傾向がみられた。また、触覚刺激を用いた課題でも同様に、小さい数字を呈示した時より大きい数字を呈示した時に反応時間が有意に短くなった。これは、左頭頂連合野がこのような大小数字の呈示にともなう左右方向への注意の移動に関わることを意味しており、今後学会にて発表、論文を作成する。 また、過年度に行った数字の呈示後に時間順序判断を行わせる課題を用いた研究は、判断が50%になるような状況下で、呈示する数字の大小で正答率が変わることを明らかにし、北米神経科学学会にて発表を行ない、今後論文として発表する。
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