研究課題/領域番号 |
21K12093
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
野村 亮太 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (70546415)
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研究分担者 |
島田 裕 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (50734414)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 芸術鑑賞 / 生理指標 / 訴求力 / リカレンスプロット / 時系列解析 |
研究実績の概要 |
表現の訴求力は観客の情報処理に依存しているため、研究者が直接観察することはできず、その強さの比較や影響源となる要素の特定は、未解決の課題として残されている。この問題を解決するために、本研究では、非線形科学で確立された手法を適用し、観客が表出する集合な応答(表情、身体動揺、瞬目等)を計測した時系列データから表現の訴求力の強さ(振幅)を数理的に再構成することを目的とする。 本年度は、まず再構成手法の精度を検証するために、特定の周期で心拍を出力する簡易的な数理モデルに心拍を加速・減速させる信号(三角関数の合成で作成した矩形波)を共通入力として与え、出力である心拍点過程データのみから加速・減速信号の振幅を再構成できるか否かを検証した。その結果、心拍モデルのダイナミカル・ノイズが大きいときには小さな振幅(フーリエ級数の第3項の成分)は打ち消されてしまうものの、入力信号の全体的な形状(矩形)に対応する背景を正確に再構成することができた。また、点過程を観測する時間窓幅(0.25- 10[s])にほとんど依存せず再構成ができた。 次に、同一の手法を実データに適用し、再構成を行った。具体的には、個人を対象とした実験を実施し、そこで得られた音楽鑑賞中の心拍点過程データに重畳リカレンスプロットを用いた手法を適用することで、音楽の訴求力を再構成した。その結果、音楽知覚・認知システムの出力としての心拍の情報のみを用いているにも関わらず、心拍を加速・減速させる力としての訴求力を再構成することができた。再構成された時系列は、特に人が歌う楽曲のサビやサビメロディにおいて強くなることが確認され、音楽の構造に対応することが示された。ただし、実データでは点過程を観測する時間窓幅が小さくなると、再構成はできなくなった。これは人間の音楽知覚・認知システム自体の揺らぎや心理実験の時間的精度によると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値実験により、主目的となる再構成手法の確立を実現できた。また、研究計画で示した心理実験のうち1つを実施し、一定の成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は音楽鑑賞時の心拍データを用いて検討したので、今後は他の様々なジャンルの表現における観客の反応(表情、身体動揺、瞬目等)を用いた検証を進める。また、複数の参加者(観客)から同時計測したデータを用いた検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費を計上していたが、新型コロナウィルス感染症拡大のため、学会がオンライン開催となったため、次年度使用額が発生した。次年度は、研究成果を発表するために、国内で実施される学会の参加費および旅費として使用する予定である。
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