研究課題/領域番号 |
21K12099
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
徳丸 正孝 関西大学, システム理工学部, 教授 (70298842)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ソーシャルロボット / 感情モデル / ヒューマンコンピュータインタラクション |
研究実績の概要 |
複数の人とロボットの協働的コミュニケーションに着目し,感情を中心とした様々な要因により振る舞いが変化するロボットやエージェントを開発して複数の応用システムに実装して評価実験を行った.まず,ロボットの感情表出が人の感情状態に影響を及ぼすかを検証するために,感情伝播を伴うロボットの感情表出モデルを開発し,VR空間に再現したスポーツカフェで人とロボットの集団が一緒に野球の試合を観戦する状況下で実験を行った.その結果,同一チームを応援する人とロボットのグループにおいて,試合展開に応じてロボットが表出する感情は人の内部感情や印象に影響を与えることが示唆された. また,人とロボットが協調して英語学習を行う2種類のシステムを開発し,人とロボットの関係性が人の学習意欲向上にどのような影響を与えるかを調査した.まず,英語学習の進捗に応じて感情を表出するロボット・エージェントを実装した学習システムでは,ユーザの学習状況における感情状態に対してロボット・エージェントが励ましなどの向社会的行動を取ることで,ユーザもロボットの感情に気を配り,互いに励まし協力して学習意欲を維持できることが示唆された.また,2体のロボット・エージェントとユーザが協働して学習を進めるシステムでは,ユーザより優秀なエージェントと未熟なエージェントがユーザと共に学習を進める上で,「教える」「教わる」などの役割を分担することで学習意欲を維持できることが示唆された. さらに,複数の人とロボットの共創により自由に音楽を生成するシステムを開発し,協働的コミュニケーションの実験を行った.本システムでは人とロボット・エージェントの動作が音に変換され,人とエージェントのダンスにより音楽を奏でる手法を開発した.実験結果からは,ロボット・エージェントとの共創が人同士の共創と同等の楽しさを提供できることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ソーシャルロボットの感情的な振る舞いや協調的・対立的な意思決定が,人とロボットの集団による協働的・共創的なコミュニケーションに与える影響を検証するため,今年度の研究では当初の研究実施計画であった人とロボット集団の創作ダンスというインタラクションの実現に向けて,人とロボットのダンス動作が楽音に変換され,それぞれが奏でる楽音がハーモニーとなり共創が生まれる仕組みを提案し,プロトタイプシステムによる実験で効果を検証することができた. また,人とロボットの集団が感情を表出することで,感情伝播により集団の臨場感や一体感が生まれることが確認できた.しかし,現在のシステムではロボットの感情表現が身体動作と表情変化のみであり,感情表出のバリエーションも限られているため,より繊細な感情の表現や歓声などの音情報も加えた感情伝播の仕組みを検討する必要がある. ロボット・エージェントとユーザとの協調学習では,当初の研究計画では想定していなかった感情状態に応じた「励まし」という向社会的行動を取るロボットの意思決定モデルを開発することができた.現在のシステムは学習シナリオが限定されたプロトタイプシステムであり,ロボットとユーザとの協働を演出するための具体的かつ豊富な学習シナリオの開発が必要である. 人とロボットの集団における協調的・対立的な振る舞いを検証するモデルとしては「遠慮」に着目したロボットの意思決定モデルを開発し,当初の研究計画以上に多様な人間的振る舞いを模倣するロボット・エージェントモデルを開発することができた.また,前年度に開発した人とロボットが互いの利益を考慮しながら利己的・利他的に行動できるロボットの意思決定モデルについては,今年度に詳細な追加実験を行い有効性が確認できたことから,感情表出機能を融合したモデルに発展させるための検討を進めた.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究を通して,人とロボットの集団的共感・共創モデルの開発には,リアリティを伴う集団インタラクション環境を設計することが重要であることがわかってきた.したがって,これまでに開発したロボットの感情表出・意思決定のモデルをより詳細かつ具体的なインタラクション環境を想定したシステムに実装し,VRデバイスなども活用して有効性の検証を進める. また,実験環境における人とロボットの個体数が多いと,ロボットの集団的な感情表出や感情伝播は1つのまとまりとして人に認知され,個々のロボットの感情状態の変化を観察することが難しいことが実験によりわかっている.したがって,集団的共感に展開可能なモデルにおいても人とロボットの1対1コミュニケーションを題材とした具体的な協働・共創システムを開発し,お互いの感情表現や意思決定が相手にどのような効果・影響を及ぼすかを検証する.今年度に開発した英語学習を通じてロボットが「励ます」という向社会的行動を取るシステムは,1対1コミュニケーションの題材に適しているため,集団での共感・共創モデルに拡張可能な仕組みを保持しつつ,濃密な1対1コミュニケーションを行う環境を開発して実験を進める. さらに,当初の研究計画時には困難とされていた人とロボットの自然言語によるコミュニケーションも,近年の会話モデルの劇的な進化により実現の可能性が見えてきたので,ロボット実機を用いた会話コミュニケーションを取り入れた共感の演出の実験も行う予定である.一方で,人とロボット集団のコミュニケーションにおいては,仮想空間を利用して協調・対立関係が混在する複雑な環境を設計し,ロボットの感情表出・意思決定モデルを搭載した複数のエージェントと複数のユーザによる検証実験を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費・謝金等が発生しなかったため,次年度使用額が少し生じることになった. 2023年度は研究の最終年度であるため,実験被験者に謝金を支払う計画である.
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