研究課題/領域番号 |
21K12106
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
杉田 昌岳 東京工業大学, 情報理工学院, 研究員 (30737523)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 分子間相互作用 / ゆらぎ / アンサンブルドッキング / 創薬 / 3D-RISM |
研究実績の概要 |
本研究では溶媒和の効果を正確に取り入れた上でリガンド分子の結合部位や結合親和性を予測可能なドッキング法を開発する事を目的している。そのために、1)蛋白質周囲におけるリガンド分子の複数のフラグメントの分布に基づく結合親和性の予測法および、2)蛋白質分子のゆらぎを考慮したアンサンブルドッキング法の開発を試みている。2021年度ではアンサンブルドッキングに基づいて、複数のスナップショットに対するリガンドの結合部位の特定法の開発を行うための試験的な計算を行った。計算対象としてはT4 Lysozyme、L-2-haloacid dehalogenase、トリプシン、MDM2とした。また、アルブミン周囲の共溶媒の結合部位の解析も計算対象とした。具体的な計算内容はターゲット分子のゆらぎを予測する分子動力学シミュレーションおよび、リガンド分子の結合部位の予測をおこなうRISM理論計算であった。分子シミュレーションやRISM理論計算はTSUBAME3.0を用いて行った。どのターゲットでも結合部位に対するリガンド分子の高い分布が見られたが、結合部位とは異なる領域でも高い分布の見られる箇所があった。そのため、現在はそれらの違いを検出するためのフィルターとなる条件の探索を行っている。結合部位の溶媒への露出度や、結合ポケットの体積などを計測した上で実験的に判明している結合部位とそれ以外の擬似的な結合部位との比較を試みたがそれだけでは有意な違いは検出することができなかった。現在はリガンド分子の分布から結合部位における停留時間の長さを予測することができないか検討を行っている。本年度はコロナ禍による出張に対するハードルの上昇や、他予算との兼ね合いのため学会発表等を行うことが出来なかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では溶媒和の効果を正確に取り入れた上でリガンド分子の結合部位や結合親和性を予測可能なドッキング法を開発する事を目的している。そのために、1)蛋白質周囲におけるリガンド分子の複数のフラグメントの分布に基づく結合親和性の予測法および、2)蛋白質分子のゆらぎを考慮したアンサンブルドッキング法の開発を試みている。2021年度は2)のテーマに関する研究開発を行った。具体的には結晶構造解析にてリガンド分子の結合位置が明らかになっている蛋白質であるT4 Lysozyme、L-2-haloacid dehalogenase、トリプシン、MDM2を計算対象とし、分子動力学シミュレーションに基づいたゆらぎの解析および3D-RISM理論に基づいたリガンド分子の分布の解析を行った。 得られた結果では、どのターゲットでも結合部位が開いているスナップショットにおいては、リガンド分子の高い分布が見られた。この結果は3D-RISM理論がリガンドフラグメントの結合部位を探索するために有効であることを示している。しかし、結合部位とは異なる多くの箇所で高い分布が見られたため、正しいリガンド結合部位と他の擬似的な結合部位との識別が重要な課題であることがわかった。そのため、正しい結合部位および偽陽性のサイトを識別するためのフィルタとなる条件の選定を試みた。 フィルタとなる条件としては、結合部位の溶媒への露出度や、結合ポケットの体積などを選定したが、その条件のみでは両者を分離することは出来なかった。正しい結合部位ではリガンド分子が長く留まることが想定されるため、リガンド分子が長く結合部位に留まることのできる条件がリガンド分子の分布から予測することが出来ないかを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、1)蛋白質周囲におけるリガンド分子の複数のフラグメントの分布に基づく結合親和性の予測法および、2)蛋白質分子のゆらぎを考慮したアンサンブルドッキング法の研究開発のうち、2)のテーマに関する研究開発を行った。2022年度は2)のテーマの研究開発を継続しつつ、1)のテーマにも取り組む。2)のテーマに関しては、リガンド分子が長く結合部位に留まることのできる条件をリガンド分子の分布から予測することを試みる。具体的には平均的な相互作用エネルギーの強さや、分布のピーク値の周囲の分布に対する相対値等からの判断を試みる。リガンド分子が長く結合部位に留まることのできる条件を発見することができれば論文の執筆を行い、国際誌への投稿を行う。1)のテーマに関してはまず複数のフラグメントに分割可能なリガンド分子が結合している結晶構造データを収集し、複数のフラグメントの分布からリガンド分子の結合位置が予測可能かどうかの判断を行う。共結晶上のリガンド結合部位の予測が可能であると判断された場合は論文の執筆を行い、国際誌への投稿を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍が続いており学会への出張が困難であったため旅費を使用することがなかった。また、本プロジェクトで想定していた量の計算を行うことが出来なかったため、大型計算機の使用量にも残余が生じてしまった。 現在、グループで確保しているストレージが逼迫してきており、本研究のデータを保存するためのローカルサーバを確保する必要性が生じて来たため、次年度使用額と翌年度分として請求した助成金の一部を使用してストレージサーバの購入を検討している。
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