研究課題
近年、1細胞RNA sequencing (scRNA-seq) と呼ばれる実験手法が確立され、組織や器官を形作る様々な細胞の種類や個数を、遺伝子発現情報をもとに定量できるようになった。ある時刻で組織から取得した細胞集団は、未分化のものから分化したものまで、様々な経過時間の細胞が含まれると考えられる。そこで、scRNA-seqによる各細胞の発現データをコンピューターで解析することで、細胞状態の疑似的な時間軸に関する遷移過程 (細胞状態遷移経路) を捉えることができる。特に、実験条件の異なる2つのscRNA-seqデータから導出される細胞状態経路を比較することで、条件の違いによって変化する制御遺伝子を同定できると期待される。本研究では、2つの細胞状態遷移経路を、分岐などの形状情報を考慮し高精度で比較する手法を確立する。これにより、例えば疾患モデルとコントロールの二者の細胞状態経路を比較し、発現ダイナミクスの異なる因子を抽出することで、疾患病態の解明に迫ることができる。今年度は、それぞれのscRNA-seqデータセットで細胞状態遷移経路を求めた後、木のアラインメントに基づくことで両者の整合性を取る手法CAPITALを開発した。また、CAPITALをいくつかの造血系の細胞集団データに適用したところ、おおむね細胞型の一致が自動計算されることを確認した。以上の結果を論文にまとめ、国際学術誌に投稿し、年度末現在改訂中である。
1: 当初の計画以上に進展している
開発アルゴリズムのプロトタイプがある程度の性能を発揮していたため、実データへの応用が当初の計画より円滑に進んだ。そのため、国際学術誌への投稿および主要改訂という段階まで進めることが可能となった。
査読者からのコメントに対応するための追加計算機実験を実施する。論文に目途が立てば、アラインメント前に必要な細胞状態遷移経路そのものを求めるための新規アルゴリズム開発を目指す。
新型コロナ感染症蔓延の影響により、旅費の使用額がなくなり、次年度使用額が生じた。翌年度の使用計画は以下の通りである。物品費として、PC、周辺機器、関連図書を計上し、研究調査、打ち合わせ、成果発表のための旅費、その他として、スパコン使用料、学会参加費および論文掲載費を計上する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
PLoS Genetics
巻: 17 ページ: -
10.1371/journal.pgen.1009516
Immunity
巻: 54 ページ: 1976-1988
10.1016/j.immuni.2021.08.022
GLIA
巻: 69 ページ: 2591-2604
10.1002/glia.24060
The Journal of Immunology
巻: 207 ページ: 3016-3027
10.4049/jimmunol.2100526