研究課題/領域番号 |
21K12113
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
柏原 考爾 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (40463202)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | オンライン授業 / 生理心理学 / 人工知能 / 脳活動 / 自律神経機能 |
研究実績の概要 |
オンライン授業は遠隔から簡単に参加できる利便性があり、教育機関においても急速に普及が進んできた。一方、授業参加者の視点から、注意・集中力の持続性や健康面(うつ・不安状態の把握・予防策)の検討は充分になされていない。したがって、オンラインや対面授業における学習者の生理心理特性を、高次脳機能(大脳皮質での注意・集中力)や自律神経活動(精神的負担度・感情変化)から検討する。これまでの研究成果(学習時の認知心理特性の評価・解析手法)を発展させ、種々の授業形態における学習者の認知・心理的変化(注意力低下・無気力・不安感等)を生体計測により早期発見(AI診断)し、精神疾患を未然に防ぐ健康支援法(呼吸・身体運動等)の検討に活用していく。
オンラインや対面授業を始め、マスク着用の機会(授業や講演会等)が増加しているが、表情の把握が難しく、コミュニケーション不足が生じる場合も多い。顔や表情を知覚・認識する際、後部側頭葉で特有の事象関連電位(N170)の波形が見られる。本研究では、マスク着用時の表情を理解する際の脳機能を検討し、N170の振幅が増大(潜時は遅延)することを明らかにした。その一要因として、マスクで隠れた顔の部位(口等)を推定する脳内処理(アモーダル補完)の影響が示唆された。全体的にはマスク着用時の表情認識で反応時間が遅延し、ネガティブな表情において正答率が低下する傾向があった。また、学習者の表情(写真・カメラ映像)を想定して、感情状態を可視化(AI判定)する方法を検討した。今後、性差・個人差・人種(文化)間の違い等を考慮する必要がある。さらに、休憩時の効果的な呼吸法や身体運動が認知機能に及ぼす効果と、敵対的生成ネットワークに基づく高精細の画像処理による病態判別の方法も検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に従い、オンラインや対面授業を想定して、大脳皮質(前頭葉・頭頂葉)の神経活動を可視化し、注意・集中力や感情状態の変化を脳活性パターンとして推定する方法を構築してきた。また、種々の視聴環境(映像・音声・資料呈示法等)でのオンライン授業への参加者を想定し、生体計測を行う環境を構築してきた。特に、通信環境が悪い場合の映像・音声の遅延と品質(雑音)の影響も考慮している。さらに、オンライン授業による注意力の低下と感情・精神的負担度の関係性も検討し、アンケート調査(理解・集中・気分・ストレス度等)も含めて総合的に評価する手法についても言及できている。
2022年度はマスク着用時の表情を知覚・認識するときの脳機能を検討した結果、N170(事象関連電位)の振幅が増大(潜時は遅延)することを明らかにできた。また、休憩時の効果的な呼吸法や身体運動が認知機能に及ぼす効果と、敵対的生成ネットワークによる高精細の画像処理による病態判別の方法も検討できている。これらの研究成果は、適宜、学会・研究発表会にて公表(予定含)している。
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今後の研究の推進方策 |
生体計測データ(脳神経活動と自律神経活動)の時間周波数解析を中心に、学習者の注意・集中度、感情状態、精神的負担度の評価を行う。特に、学習者のワーキングメモリに着目した脳機能(注意・集中力)を検討していく。最終的に、学習者の表情や生理心理指標の変化から感情状態を可視化(AI診断)し、精神的な負担の少ない(注意・集中力が持続する)オンラインや対面授業の環境を検討する。研究成果の応用として、学習者の健康状態や表情のAI診断(深層学習による感情分類)を行い、注意力低下・無意識の感情変化・精神的負担度の変調(病気の兆候)を推定(早期発見)できる方法を検討する。また、注意力低下・感情変化・精神的負担度の増大を検知・防止できる健康支援法を検討する。特に、休憩時の効果的な呼吸法や身体運動の効果を引き続き検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
予備・本実験において、関連する生体情報(脳波・自律神経活動等)の測定部位(チャネル数)を簡略化することで、必要となる計測機器(生体アンプ増設等)の使用を最低限に抑えられた。また、安価に解析・検証を実施するため、無償のソフトウェアや既存のプログラム等を応用した。ボランティア(研究室内)の被験者やシミュレーションにより、実験実施に必要な諸費用(謝金・消耗品等)を最小限に抑えられた。学会発表の形式(オンライン開催への参加)も影響している。これまでの研究成果をさらに発展させるため、次年度以降、脳・自律神経活動に関する高精細な測定装置の購入、被験者謝金及び生体計測に必要な消耗品の購入を予定している。
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