研究課題/領域番号 |
21K12116
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研究機関 | 富山高等専門学校 |
研究代表者 |
阿蘇 司 富山高等専門学校, その他部局等, 教授 (30290737)
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研究分担者 |
原 正憲 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (00334714)
平野 祥之 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 准教授 (00423129)
藤原 進 京都工芸繊維大学, 材料化学系, 教授 (30280598)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | DNA損傷 / トリチウム / Geant4-DNA / モンテカルロシミュレーション / 間接作用 |
研究実績の概要 |
放射線によるDNA損傷では、酸素が多く含まれている条件下で損傷が進みやすい酸素効果が知られている。本研究では、原子レベルのモンテカルロシミュレーションを用いて、酸素がDNA損傷に与える機構とその影響を調べることを目的としている。DNA損傷には、放射線による直接作用と、放射化学により水中で発生したラジカルが反応する間接作用がある。酸素効果は、間接作用に関係していると考えられ、ガンマ線や電子線で寄与が大きいとされている。そこで、令和3年度の研究では、トリチウム壊変により発生する低エネルギーベータ線に着目し、(1)間接作用でDNA鎖切断に至る分子反応の割合について調査するとともに、(2)酸素分圧条件を取り入れる計算手法を検討した。下記に、これらの研究実績の概要を示す。 (1) 間接作用は、主にOHラジカルによるDNA分子の水素引抜き反応に起因すると考えられている。シミュレーションで発生したOHラジカルを平均反応時間拡散した位置を記録し、DNA構成原子の配置と照合してファンデルワールス半径内にある時に損傷が生じると仮定した。反応点に近い水素が引き抜かれたとして、損傷割合との関係を解析した。先行研究では反応割合は、各分子サイトの溶媒接触表面積(B.Blasubramanian et al. 1998)、あるいはOHラジカルのアクセス数(Yonetani et al. 2020)に関連しているとされ、本研究でもこれらの結果と同様の結果が得られた。これにより、本研究のモデル化は妥当であると確認できた。 (2) 酸素分圧を考慮する計算には、通常のラジカル拡散を追跡する手法では計算コストが大きいことがわかった。そこで、Geant4-DNAのIRT(Independent Reaction Technique)の利用を検討した。高速化と酸素添加の手法への改善方法を検討し、開発方針を確定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シミュレーションに間接作用を考慮するにあたり、当初はラジカル種を拡散しながらラジカル間反応を追跡する計算手法を用い、更に酸素分子を配置して酸素が関連する反応を追加する手法を導入することを予定していた。しかし、計算コストが大きく、計算時間の観点から実現が難しいことがわかった。その代わりに、IRT(Independent Reaction Technique)と呼ばれる手法を調査した。この手法では発生したラジカルのリストの中から、拡散係数と反応係数を基にした反応確率が最も高い反応過程を選び、その後に拡散を考慮した反応点を決定する。この手法を用いれば、酸素をラジカルのリストに加えることにより、酸素分圧の割合を模擬できることがわかった。当初の予定とは手法が異なるものの、更に高速な計算手法の実現へと検討が進んだ。酸素を考慮したシミュレーションを実施するにあたり、これは重要な進展である。今年度の研究成果は、次年度に日本生体医工学会で発表する予定となっている。以上の経緯から、研究は概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた成果をもとに、酸素分圧を変化させた場合のシミュレーション計算を行い、DNA損傷に与える影響を評価する。量子力学計算や分子動力学計算により、OHラジカルとDNA分子との反応についての解析も研究分担者を通じて継続的に研究を進め、得られた知見をモンテカルロシミュレーションに反映させる。モンテカルロシミュレーションでは、IRT手法を用いて、計算効率の高い計算手法を提案して実装を行っていく。これにより、酸素分圧とラジカルの生成分布、特にOHラジカルの時間的増減の推移を検証する。最終的に原子レベル・分子レベルでのDNAの分子損傷における酸素効果について評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費については、シミュレーションの研究開発に必要な計算資源を整備していく計画であったが、COVID-19に起因する半導体不足のために、想定していた計算機の価格が高騰したことや、納期が未定となる品物があったことから、購入を控えた経緯がある。一方で、開発に必要な最低限の計算機の確保や実験消耗品の購入を行い、計算と実験との結果比較に必要な環境の整備に努めた。来年度の助成金と合算することで、研究を円滑に進めるために必要な計算設備等の整備を図る予定である。 旅費についても、共同研究機関から会合を控える案内があり、オンラインでの会合に切り替えて対応した。同様に、国際学会等もオンライン開催となった。次年度は、COVID-19の状況も落ち着いてきたことから、旅費の執行が円滑に進むと考えている。
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