研究課題/領域番号 |
21K12123
|
研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
渡辺 信一 電気通信大学, 国際教育センター, 特任教授 (60210902)
|
研究分担者 |
瀧 真清 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (70362952)
山越 智健 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 研究員 (30801245)
宮下 尚之 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (20452162)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 非天然型DNAアプタマー / TBA / G-quadruplex |
研究実績の概要 |
TBAは天然の4種の核酸の中のTとGのみで形成され、塩基配列は5'-GGTTGGTGTGGTTGG-3'である。4つのグアニン対を持ち、2つの対の各々が安定なグアニン4重鎖と呼ばれる平面構造(G-plate、G-quadruplex)を形成する。2つの平面が並行なチューブ状に並び、その中にK+イオンを捕獲するイオンチャネルを形成すると堅固なDNAアプタマーとなる。G-plateによる堅固な構造は生体内では染色体の末端部にあるテロメアにも見られ、癌の抑制/惹起の研究でも興味を持たれている。本研究はこの興味深いDNAアプタマーの(a)構造と安定性、(b)ヌクレアーゼ耐性、(c)特異的結合能点を考察する。また、共同研究者らから動力学の分析に有効な数理手法やTBAに関連するDNAアプタマーの実験的研究の情報を得ながら研究を進めている。 全体像を得るために特に重要なものは(a)である。TBAだけではなく、類似の構造で性質の異なるものの比較が必要である。実験的先行研究では、幾つかの核酸をα-アノマーで置き換えているが、アノマーの実験的・理論的構造決定はできていない。MD計算をするため、山越と渡辺はxleapを利用し、宮下はpythonツールを開発して、アノマー化したTBAのpdbを作った。塩基を糖との軸について回転させてsynとantiの配置による安定性の吟味もMDシミュレーションで実施したが、これらの試行的な結果はまだ発表の段階に至っていない。 本研究の目的(b)に関して、瀧はTBAにターゲットと共有結合するwarheadを付けたDNA・コバレント・アプタマー(TBDcA)を実験的に作成し、その各種ヌクレアーゼ耐性機構を検討し、有意な結果を得た。宮下はTBDcAの理論計算の前段階としてペプチドをベースにしたペプチド・コバレント・アプタマー(PecA)の知見を得る準備研究を実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の理論計算には gromacs と xleap を2つの主要ツールとして用いる。TBAのpdbファイルをもとに、xleapでα-アノマー化したDNAアプタマーを構築すること、および 核酸をsyn->antiあるいはanti->synに置換することを確かめ、試行的なMD計算を行った。しかし、椅子型とバスケット型の2つの可能な候補を持つA12の場合は、椅子型を仮定してTBAに基づくpdbから出発して計算した場合は、有意な確率で安定になることが分かった反面、backboneの連結のトポロジーに変更を伴うバスケット型の場合は、そもそも確定的なpdbの構築が困難であることが分かった。後者については数理物理的な問題として後日別途研究することとしたい。 幾つかの椅子型のアプタマーについては、1μ秒程度の試行計算を試み計算速度を確認した上で安定性を調べた。近年はこの規模の計算がデフォルトとなっているが、相応の計算時間を要すること、山越が分担者から抜けることなどにより、計算負荷を再検討しつつ、方向性の見直しを行っている。 ヌクレアーゼ耐性については実績概要にあるようにDNA・コバレント・アプタマーの実験的な作成に成功している。これを受けてペプチド・コバレント・アプタマーの知見を得る準備研究を実施している。
|
今後の研究の推進方策 |
高温でunfoldingを研究した先行研究によれば、比較的短時間のMD計算で自由エネルギー面のランドスケープが計算できている。そこで、チミンのα-アノマー化における熱的な影響について有用な情報を得るために閾温度を見積もる。ただし、閾値近傍の温度に近付くにつれて、計算時間は長くなると予想される。閾温度を正確に見積もる計算が短時間で終了することは考え難いが、安定性に関する長時間軌道計算で温度依存実験と相関が取れるかどうかを吟味することは可能であろうと考えている。このような計算を通じて自由エネルギー面のランドスケープを明らかにすることは、folding/unfoldingにおける知見を分かり易く表現することにもつながる。 TBAの鋳型に基づいた数種の安定なアノマーDNAアプタマーを環境温度の調整で不安定化する計算はこれからである。渡辺はそのような計算で無構造状態へ崩壊する軌道が、遷移状態についての情報を提供するか検討する。そのために必要な可視化の数理的アプローチについては、渡辺と宮下が共に検討する。 宮下は、ペプチド・コバレント・アプタマーPecAとターゲットタンパク質との相互作用の研究および、TBDcAの力場作成およびMDシミュレーションの実施を予定する。瀧は血液凝固機能を阻害する非天然核酸型TBDcA薬剤のコンビナトリアルスクリーニングを行うための実験対象系を立ち上げる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
まず、GPU搭載の計算機の購入を計画したが、半導体の不足とそれに伴う価格の上昇のため期待するパフォーマンスを有するマシンの導入が難しくなり、市場の動向を見守ることとした。新年度に合算した助成金で購入したいと考えている。 また、国内移動に支障が無くなったことから旅費も適切に執行する予定である。
|