研究課題/領域番号 |
21K12124
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
三浦 信明 新潟大学, 医歯学系, 特任准教授 (80372267)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 糖鎖 / グライコミクス / 血清 / コホート / 自動解析 / MALDI-TOF-MS / 大規模 |
研究実績の概要 |
本課題では, グライコミクス支援ソフトウェアToolbox Accelerating Glycomics (TAG)の開発を推し進め, 多くのグライコームに対応した自動データ解析の基盤を構築する事にある. 本課題では(1)糖鎖リストの充実, (2)機種依存のできる限りの解消など本体の機能拡張, (3)糖鎖生合成マップの拡張を進める事としている. 本年度は, 大規模血清コホートの解析に資するための開発が大きなウエイトを占めた. (1)N型糖鎖については最近ヒト血清中で発見されたLacDiNAcやM5より多くのマンノースを有するハイブリッド構造などを生成できるよう追加した. (2)については, 糖鎖帰属の安定性の向上, 帰属した糖鎖から1および2残基増減した糖鎖(linked-glycan)の帰属情報をサマリーファイルに追加した. この情報は生合成経路と発現量変動などを結び付けるための基本情報になる. 生命科学的な糖鎖の機能解明に役立つだけでなく, 帰属上も生合成の流れを追う事でより信頼できる帰属を可能とする. さらに, 1プレート384サンプルを一斉に解析する際に, 384個すべての出力ファイルに解析上のメタ情報を入力するのは煩雑でミスが起きやすいため, 384スポットを模倣したエクセルシートに対して各スポット対応するセルに濃度やラベルなどの情報を収めたファイルからメタ情報を自動で生成する機能を追加した. 同じ条件のサンプルを毎回同じスポットに点着するようなルーティンでの手間を劇的に軽減する. (3)については, 今年度の研究の中で議論し, 生命科学的な見方としては, まず, シアル酸全体がどのように変動したかを把握することが重要であるという見解に到達した. そこで, シアル酸の情報をひとまとめにして生合成経路上の糖鎖の発現変動をマップする指針が立てられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
血清の大規模コホート解析への対応が今年度の大きな研究開発であった. N型糖鎖に関しては糖鎖リストの充実を実現できた. また, これまで質量分析器のキャリブレーションが不安定な際に正しく帰属できない場合があった点を, いくつかのアルゴリズムを考案・実装し安定して糖鎖帰属できるよう改良した. 機器の進歩によるキャリブレ―ション性能も向上し感度も上がったため, より多くの糖鎖を帰属できるようになった. これが原因で上述のような糖鎖リストの充実も必要となった. 研究協力者らとの議論の中でSALSAなどを導入したことによって発散の方向に向かっていた生合成経路の記述については第一歩的にはシアル酸全体の発現量をまとめた簡易版を作成するのが有用であるという方向性見出せた. これらは, 原理的に向かいがちなインフォの研究だけでは得らない知見で有用だった. 大規模コホートの解析を行うにあたって, プレート1枚分に相当する384サンプルの一斉解析を行う. これまでは一部使用していたツールの制約で一斉解析するためのメモリを確保できなかったが, これを実現する方法を見出し, 1プレート分の一斉解析を可能とした. WindowsとMac, Unixなど多くのプラットフォームへの対応については, 共通に用いる事ができるgnuのシステムでは, 実は同じソースコードから問題なく異なるプラットフォーム上で動作させることができる事を検証できた. これを実現するには, 全部のプラットフォームでの同様な環境構築が必要となるが, 環境構築に力を入れれば, プログラムをすべて書き換えるような事は不要である事がわかった.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究によって, 現在のプログラムのソースコードでwindows, mac, unixなど多くのプラットフォームに対応可能なツール群に刷新することで, プログラム全体のpythonへの書換えを行う必要性は下がった. プログラム全体の書換えは動作検証を含めリスクがあると同時に開発の速度を停滞させる場合があるため, 本研究課題では, より多くのクラスの糖鎖への対応や生合成経路上へのマッピングの機能など糖鎖解析を科学につなげる部分の機能を拡張していく. プログラム全体の書換えも完全に不要とは思わないが, そのソフィスティケートは基本的な機能が出そろうであろう次のステップに譲る. 今年度の議論から方向性が導かれた生合成経路の簡易表示について, 最優先で取り組み血清コホートのN型糖鎖解析の際に糖鎖の帰属から生合成経路上の発現情報マッピングまでほぼ自動で行うパイプラインの構築まで完成度をあげたいと考えている. また, linked-glycanの活用について深く検討する. 生合成経路上の発現情報に結びつけるとともに, 糖鎖帰属の信頼性向上にも役立てられるよう活用法を見出したい. 主にこれらを進めるとともに, 当初の計画にあった他のクラスの糖鎖についてもできる限りの対応を行おうと考えている. 他のクラスとしては, N型遊離糖鎖とスフィンゴ糖脂質糖鎖, O型糖鎖について対応を進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は海外旅費と論文投稿費を見込んで予算を考えていた, このうち海外学会に参加し情報収集を行おうと考えていた分は, 国内で国際学会が開催された事もあって費用が安く抑えられた, また論文投稿については招待があり投稿料金が無料となったため予算を使わなかった. これらによって一部予算を次年度に使用する事となった. これらの予算は, windows11のコンピュータでのテストを行っていないなど, これまでテストを行っていないプラットフォーム上での動作の検討等を行うためのPCや機器の購入などに充てさせて頂こうと考えている.
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