研究課題/領域番号 |
21K12130
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
菊地 武司 立命館大学, 生命科学部, 教授 (90195206)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 結合自由エネルギー / ファインマン自由エネルギー不等式 / SARS-CoV-2 |
研究実績の概要 |
本研究では、ファインマンの自由エネルギー不等式に基づく相対的結合自由エネルギーの予測法(Method based on free energy inequality of Feynman (Method based on FEIF) に新たに溶媒効果を取り入れることを目標とする。これまでの方法(T. Ashida and T. Kikuchi, J. Comut-Aided Mol. Des. 27, 479 (2013), T. Ashida and T. Kikuchi, J. Comut-Aided Mol. Des.34, 647 (2020))では、分子動力学シミュレーションの部分は陽溶媒を用いていたが、ファインマンの自由エネルギー不等式による相対的結合自由エネルギー計算の部分は陰溶媒を用いた計算、すなわちMM-GB/SA法を用いていた。本研究では、この部分の計算をreference interaction site model (RISM)理論を導入することを目的としている。それにより溶媒和自由エネルギーの計算精度を高め、より精度の高いタンパク質-リガンド結合自由エネルギーの予測法の開発、すなわち比較的計算コストは低いにも関わらず、予測精度の高い方法の開発を目指す。その方法の結果を、これまで有効とされている自由エネルギー摂動法(FEP法)、MM-PB(GB)/SA法、線形相互作用エネルギー(LIE)法の結果と比較する。現在のところ、まず現FEIF法にRISM理論を実装することから始め、それをPim-1キナーゼの阻害剤の結合自由エネルギー計算に応用することを試み、予備的な結果を得ている。また、新しいFEIF法をSARS-CoV-2タンパク質阻害剤の開発に応用し、Covid-19治療薬候補の提案を試みる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、FEIF法に溶媒効果を有効に取り込むため、RISM理論の実装を試みている。FEIF法では、まずタンパク質とリガンドの複合体のMDシミュレーションを陽溶媒を用いて行う。本研究では、300K、1atm、の環境下、20psecの昇温過程、20psecの平衡過程を経て、10.2nsecのシミュレーションを行う。この際、リガンドとして、非摂動系リガンドと摂動系リガンドを対象とする。MDシミュレーションの後、FEIF法の手続きを行う(T. Ashida and T. Kikuchi, J. Comut-Aided Mol. Des., 34, 647 (2020))。対象としてPim-1キナーゼの阻害剤を取り上げる。Pim-1キナーゼは、セリン/スレオニンキナーゼの一種であり、様々な組織で発現していることが知られ、その阻害剤はがん治療薬として期待されている。 現在のところ、Pim-1キナーゼ(PDBコード:3BGQ)に対し、FEIF法にRISM計算を取り入れて、タンパク質ーリガンド相対的結合自由エネルギー計算を試みている。RISMモデルにはAMBERモジュールを採用した。リガンドはtriazolo[4, 3-b]pyridazineを基本骨格とする者である。阻害定数Kiはすでに測定されている (G. R. Pierce, Bioorg. Med. Chem. Lett., 19, 3019 (2009). 従来FEIF法ではもっとも実験値との相対誤差(摂動系リガンドと非摂動系の誤差の絶対値)が最も大きかったリガンド(1.86kcal/mol)を用いた。その結果、相対誤差は0.12kcal/molと大幅に改善された。この傾向が様々なリガンドにおいて成立するか今後検証する予定である。ただし、他のリガンドに適用した時の結果に鑑み、パラメータの設定についてはさらに検討が必要である。
|
今後の研究の推進方策 |
今のところ、予備的で良好な結果が得られているが、他のリガンドに応用する際には、少しAMBERモジュールにおけるパラメータの調整が必要である。今後は、最終的に得られたパラメータを用いて、一連のPim-1キナーゼ阻害剤の結合自由エネルギーを計算し、決定係数(相関係数の2乗)を求める。決定係数が0.7-0.8であれば、本研究は製鋼したと言える。またRISM理論を導入することにより計算コストが増大することが予想される。もし計算コストが大幅に増加した場合には、水素原子などの効果を重原子に繰り込むunited atom modelを導入する予定である。 その次は、本方法を用いて、SARS-CoV-2阻害剤のリード化合物の探索を試みる。まずSARS-CoV-2タンパク質とangiotensin converting enzyme 2(ACE2)との相互作用を阻害する化合物の探索を試みる。新型コロナウィルスに感染した場合、コロナウィルスタンパク質とACE2が結合することにより、コロナウィルスが細胞にとりこまれ、症状が重篤化することが知られている。SARS-CoV-2タンパク質-ACE2複合体構造はすでにProtein Data Bank(PDB)に登録されており(PDBコード:6VW1)、その界面部分に結合可能な化合物を探索し、探索した化合物の結合自由エネルギーを計算する。また別の候補としてSARS-CoV-2ウィルスの3CLプロテアーゼの阻害剤として、GC376という化合物とそのアナログがCovid-19感染マウスに対し、有効であることが報告されている(C. M. Dampalla et al., PNAS, 118, e2101555118 (2021))。このタンパク質とリガンドの複合体もPDBに登録されている(PDBコード;7K0G)。このタンパク質も本研究の対象とする予定である。
|