研究課題/領域番号 |
21K12144
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研究機関 | 東京都立産業技術大学院大学 |
研究代表者 |
林 久志 東京都立産業技術大学院大学, 産業技術研究科, 准教授 (70426609)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マルチエージェント / 分散人工知能 / タスク・リソースシェアリング / 自動交渉 / 強化学習 |
研究実績の概要 |
異なる地域・組織間におけるタスクやリソースのシェアリングは、学術的には複雑な資源配分問題における解の構造の解明において重要な課題であるとともに、社会的には業務の効率性において実現が急務とされる課題である。タスクやリソースは当事者同士で交渉して合意すれば、担当・所有者を変更することができる。しかしながら、タスクやリソースを個人や組織間で移動するには時間がかかる。一方、現実世界の多くのタスクは限られた時間内に処理しなければならない。例えば、患者を治療するというタスクでは、重症度により治療タスク開始までの時間は限られる。本研究では広域で非同期的に緊急度の異なるタスクが多発する場面を想定する。制限時間内に完了できないタスクを減らすため、移動時間と制限時間を考慮し、タスク・リソースシェアリング交渉を限られた回数で効果的にまとめるためのP2Pシェア交渉AIサポートシステムを考案する。その効果はシミュレーションで検証する。これが本研究の目的である。 2022年度では、2021年度に開発したアルゴリズムを改良し、リソースの過不足ある病院間で患者のシェアリングを実現する応用シナリオにおいて、病院間の距離をを考慮し、タスク転送(つまり患者の転院)を実施する病院間の距離を短くし、患者の移動コストを削減した。さらに、もともとの目的である「手遅れになる患者の数の削減」においても、このアルゴリズムは、2021年度のアルゴリズムよりも改良された。この結果は、国際会議KES AMSTA2022で発表した。 また、予定外のAI研究(交通や人材やデータ転送に関するタスク・リソース管理など)の成果として、上記KES AMSTA2022の論文の他にも、国際論文誌1件、国際学会発表4件(うち、受賞1件)、国内学会発表1件、紀要3件という成果をだすことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度(1年目)の目標は、「動的タスク割り当て手法を「非同期、多発、広範囲」の環境で使用し、その効果を検証すること」であった。2022年度では、1年目に開発したアルゴリズムをさらに改良することである。リソースの過不足ある病院間で患者のシェアリングを実現する応用シナリオを想定し、「非同期、多発、広範囲」で患者が各病院にくるシナリオにおいて、「病院間の距離を考慮できる」複数のアルゴリズムを提案・比較評価し、有効なアルゴリズムを見つけ、さらに改良することができた。 コロナ対策が緩和され、学会発表を活発化し、国際論文誌1件、国際学会受賞(IIAI AAI BMOT2022; Honorable Mention Award)、国際学会発表5件(KES AMSTA2022, IIAI AAI SCAI2022, IIAI BMOT2022, FLoC NMR2022, INSTICC ICAART2023)、国内学会発表1件(人工知能学会SIG-BI研究会)、紀要3件(全て東京都立産業技術大学院大学紀要)という計画を上回る成果を出した。 一方、これまで実装してきた「ヒューリスティックスをルールベースで表現したアルゴリズム」を「強化学習」という手法を用いて改良を試みる計画であったが、現段階では強化学習の手法の調査段階に留まっており、本年度に改良したアルゴリズムでは強化学習を用いていない。したがって、当初の計画以上に進んだ点と、計画変更して強化学習を用いない別手法を用いた点があり、トータルとしてはおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度では、1年目に開発した「動的タスク割り当て手法」(ヒューリスティックスをルールベースで表現したアルゴリズム)を改良し、病院間の距離を考慮したタスクシェアリング(病院間の患者の転送)ができるようになった。2023年度では、当初の目標に戻り、強化学習でさらにアルゴリズムの改良ができるか探索する予定である。2024年度では、最新のマルチエージェント強化学習の手法を参考に、エージェント間連携、報酬の与え方、などを工夫し、さらに改善できるかどうか模索する。また、成果は、積極的に国内外の学会で発表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ対策のため、2021年度の学会参加は全てオンライン参加となり、旅費(国内出張および海外出張)が0円となった。そのため、2022年度では、多くの次年度使用額が生じた。また、2022年度からコロナ対策が徐々に緩和され、国際会議への参加費用や旅費などで多くの金額を使ったものの、単年度で消化しなければならない学内研究費などを優先的に使用したため、翌年度に繰り越しできる科研費の消化は後回しとなった。しかしながら、必要な設備・物品・図書などは入手できており、研究は問題なく実行できている。また、多くの研究成果を上げ、研究発表(オンライン)も実施できている。 本研究費は4年間で使う予定であったが、コロナ対策(国際学会のオンライン参加など)により1年目の旅費が浮いた事情もあるため、1年延長して有効活用することも検討する。予算は各年度で均等に有効利用することを心掛ける。コロナ対策による出張規制や入国規制が緩和されるに従い、学会参加のための旅費は大幅に増える見込みである。
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