2023年度は,宇宙航空研究開発機構(JAXA)の気候変動観測衛星GCOM-C搭載SGLIセンサの2023年分の校正済み放射輝度データを用いて,北極海流入主要6河川(ロシアのオビ,エニセイ,レナ,コリマ,北米のユーコン,マッケンジー)の主要流路に沿った水域の表面水温,河道幅の抽出を行い,2018-2022年の解析済データと合わせた6カ年分のデータセットを作成した.これまでの解析で,各河川の水温は6-8℃程度の振幅で年により変動していること,河道幅も3割程度の変動が生じていることが明らかとなっている.2023年は,マッケンジー川にて5月から10月にかけての水温が6カ年平均より2-4度高く,河道幅も1-2割狭くなった状態で推移していることが明らかとなった。この年のカナダの陸面温度の異常高温かつ少雨の影響が河川水温にも現れたと考えられる。河川水温および河道幅は,融雪時期を除くと,陸面温度や降水量の影響を強く受けながら変動しており,逆相関(水温が上がる(下がる)と河道幅が狭く(広く)なる)関係を示す事例が6カ年の観測で多くみられた。また,SGLIによる河口付近の河川水温と地上観測に基づく河川流量をもとに6カ年の北極海への流入熱量を算出したところ,オビ,レナの両河川で7月の流入熱量に減少,増加の傾向がそれぞれみられた。このことから,近年,北極海へ流入する熱量の季節パターンに変化が生じている可能性がある。このようにSGLIのデータが蓄積してきたことで北極海流入河川の水温と河道幅(流量)との相関関係,そして北極海への流入熱量の変動傾向が明らかになりつつある。今後もSGLIによる観測を継続することで,北極河川の温度や流量に影響を及ぼす環境因子やそのメカニズムを明らかにすることができると期待される.
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