研究課題/領域番号 |
21K12209
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
丸尾 雅啓 滋賀県立大学, 環境科学部, 教授 (80275156)
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研究分担者 |
岩田 智也 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (50362075)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メチルホスホン酸 / P(+III) / 西湖 / リン循環 / 水温躍層 / 水酸化鉄(III)共沈法 / 琵琶湖 |
研究実績の概要 |
2022年度には、①前年度に確立した水酸化鉄(III)共同沈殿濃縮-イオンクロマトグラフィー法によるメチルホスホン酸定量法の適用範囲、最適条件を確立する実験をまず行った。濃縮するメチルホスホン酸の濃度範囲、濃縮時のpH範囲をこれまでよりも幅広く設定し、回収率の変化をより正確にとらえることができた。結果として、天然水中のメチルホスホン酸濃縮条件は前年度に行ったものとほぼ同じであり、回収率はメチルホスホン酸濃度により変動するが、実在する試水から得られるメチルホスホン酸濃度を考えると回収率は一定とみなして差し支えなかった。②本手法を用いて、2021年度に西湖の成層期に採取した試料に含まれるメチルホスホン酸濃度の定量値が信頼できるものであることが明らかになった。夏季の水温躍層形成期における琵琶湖、西湖におけるメチルホスホン酸の定量を確定することができた。琵琶湖北湖では、成層期にメチルホスホン酸が検出不可能(0.05 nmol/L以下)となり、同時期にリン酸態リン(イオンクロマトグラフィーにて定量)も検出限界(0.5 nmol/L)以下となっていた。深水層では最高1.4nmol/Lであった。懸濁態メチルホスホン酸は検出できなかった。 ③西湖については、2021年8月採取試料において、深度10 mで最大2.45 nmol/Lを示し、同じ深度の懸濁態試料からも、0.34 nmol/Lのメチルホスホン酸が検出された。この層はメタン極大層の中にあり、かつメチルホスホン酸消費者:メタン生産者とされるシアノバクテリア由来の色素:ゼアキサンチン濃度も最大であった。この結果について、2022年度の日本陸水学会第86回大会(兵庫県立大学主催:オンライン)で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①淡水中の溶存態メチルホスホン酸の濃縮、脱着、イオンクロマトグラフィーによる定量法は、今年度の実験で信頼性が高いものになった。回収率の向上はできなかったが、実際の濃度範囲において一定の値を示すことが明らかになったため今後も本手法を適用し、メタン極大層生成とメチルホスホン酸濃度の関係を引き続き解明していくことが可能となった。 ②メチルホスホン酸濃度は明らかに西湖の成層期に水温躍層付近で高い値を示した。また懸濁態からもメチルホスホン酸を検出できたことは大きな収穫であった。琵琶湖についてはリン酸イオン、メチルホスホン酸共に検出限界以下であり、リン摂取のための種々の機構が作用している可能性も示唆された。 ③一方で、西湖の試料採取を実施できなかったことから解明できていない部分が多く残った。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、①西湖における調査を3回実施し、成層前期、中期、後期の3回にわたり観測を行う予定である。より詳細なメチルホスホン酸の分布、季節変化を明らかにする。②同時に、西湖においてこれまで同時にできなかったメタン、ゼアキサンチン、リン酸イオンの測定、さらに現場プランクトン採取、培養によるメタン生産者の確定、生産量の推定を行う予定である。流入する河川水等についても詳細に分析し、現場でのメチルホスホン酸によるメタン生成が全体に占める割合を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度に西湖における試料採取を複数回予定していたが、湖の成層期と、コロナウイルス感染症の流行期が重なったために、実試料の採取を進めることができなかったためである。2023年度は3回の調査を予定しており、その旅費と研究補助者雇用費に充てる予定である。
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