有明海では,激減したアサリ資源回復のための覆砂事業で,アサリの競合種(ホトトギスガイ)が増殖する。アサリやホトトギスガイなど懸濁物食性二枚貝(以下、二枚貝類)の餌要求量は,主な餌と考えられてきた基礎産者ではわずか5%しか満たすことができない。本研究では,「不足する95%の餌として,糞を分解するバクテリアが重要なのでは?」という問を立てた。この問を解決するため,干潟全域の二枚貝類の餌要求量と,基礎生産量・バクテリア生産量との物質収支バランスを見積もり,二枚貝類への餌供給過程を明らかにする。 ホトトギスガイの餌要求量,基礎生産量,バクテリア生産量を定量し,その予測モデルを構築し,干潟全域(22km2)に拡張する。この結果は,ホトトギスガイのコントロールにつながり,新たな種間関係で漁獲量低迷に喘ぐ有明海のアサリ個体群再生に必須である。基礎生産の室内培養実験と係留系観測により,河口干潟の水柱と堆積物の基礎生産量を統一的な方法で高解像度かつ長期間(-1年)で定量し,その変動要因を考察した.水柱の基礎生産の増加後に堆積物の基礎生産が卓越しており,水柱の基礎生産が堆積物の基礎生産を制限することが示唆された. 河口干潟で水柱と堆積物の基礎生産量、アサリの二次生産量および安定同位体比を用いて底生微細藻類と植物プランクトンへの摂餌圧の季節変動を評価した。アサリの摂餌圧は植物プランクトンで0.8-3.8倍、底生微細藻類で5.0-26.5倍を示し、この干潟ではアサリの高密度な個体群が年間を通して摂餌圧が高いことが示された。
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